残酷な描写あり
R-15
第75話 『お願いだから⁉』
「う、うそでしょ、なんでよ⁉」
意味がわからず、思わずアルマは立ちあがった。
「んー、ボクらが無事に帰るためには、やっぱり、あいつらに勝たないとダメな気がするんだ」
支度をつづけながら、スペスは言う。
「だって――あいつらが勝ってそのままココに居座ったら、あの神殿のあたりは調べられなくなる」
「それならせめてっ、メイランさんが来てくれるまで待てばいいじゃないっ!」
「ダメだよ……」とスペスは首をふった。
「それだとアールヴの人達に、かなりの犠牲が出ちゃう。ヘタをしたら全滅に近いくらいの……」
「そうかもしれないけどっ、だからってスペスが行ってどうなるのよ!」
アルマは、どうにかしてスペスに思いとどまらせようと説得する。
「いまから行っても、どうにもならないわよっ。コレは、とっくに起こった事なのっ。
三百年後にここのひと達は……、もう、いなくなっていたんだから……。スペスが行ったからって、何も変わらないじゃない……」
「そうだけど、そうじゃないんだよ」
スペスが落ち着いた声で言った。
「確かに、〝その過去〟にボクらはいなかった。アールヴとメイランさんとの接点もなかったはずだ。でも――〝その過去〟と、ボクらがいる〝この今〟は同じじゃないんだよ」
――だって、ボクらがいるんだから。
そうスペスは言った。
「だからさ、〝未来〟がどうなるかはわからないけど……、ボクが何かをすれば、結果はぜったい同じ事にはならない。……そうボクは思うことにした」
静かにスペスは語る。
「ボクは……ボクらがリメイラに帰るために、そして、アールヴの人たちが滅ぼされないように、今できることは、やっておきたい」
「そんなことを言ってもっ!」
アルマは、支度を続けるスペスの服にしがみついた。
「いま行ったら、死んじゃうかもしれないのよ! あの化け物に殺されて、食べられちゃうかもしれないのっ!
これが……わたし達が会える……、最後になるかもしれないんだよっ!」
アルマの大きな声が、穴のなかに残響をのこす。
「大丈夫だって。ボクは死なないよ」スペスは言った。
「ボクは、アルマをリメイラ村に帰さなきゃいけないからね」
「そんなの、もういいからっ!」
アルマは叫んだ。
「そんなの、もういいのっ! お願いだからここにいてっ!
わたしを……置いて行かないで! わたしを……ひとりにしないでよ……お願い……します」
スペスにすがりつき、その瞳をじっと見る。
「ごめん……」とスペスが言った。
「――ボクだって、アルマを置いて行きたくはない。でも、長老さんやタッシェを、この先ひとりぼっちにもしたくないんだ。もし助けられるなら、ボクは……アールヴを助けたい」
「嘘……つき」
目を伏せてアルマは言った。
「スペスはわたしを守ってくれるんじゃ……なかったの?」
「ごめん……」
スペスが言うと、しばらく沈黙がながれた。
「わかったわよ」
うつむいたまま、アルマは言った。
「勝手にどこだって行けばいいじゃない! スペスはバカなんだからっ! 知ってたわよ!」
「ごめん……」
また――スペスがあやまった。
「いいわよ……」下を見たまま、アルマは言った。
「スペスは、頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないけど、ついでに言うならスケベで約束も守れない事ぐらい……知ってたわよ!」
「なんでいま、言い直したの……?」
「頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないし、ついでに言うならスケベで約束も守らないけど――
いつもスペスは何かに一所懸命なのよね……それはよく知ってるから……」
だから……もう止めない。
けどっ――
顔を上げたアルマは、涙をあふれさせながら、潤んだ声で精一杯に言った。
「無茶してもいいっ! 怪我をしてもいい! わたしが治してあげるっ! だからっ……お願いだからぁっ! 絶対に死なないでぇぇっ!」
泣きながらそう訴えるアルマを、スペスは無言で引き寄せ、抱きしめた。
「わかった。ボクは死なない。無茶なこともしない。約束するよ」
「嘘……つき」
頬を濡らしたアルマも、腕を回してスペスを抱きしめる。
そのままふたりは、しばらく無言で抱きあった。
やがて、スペスがそっと手をゆるめると――ふたりはすこしだけ離れた。
お互いの顔を見つめあうふたりの唇が、僅かな灯りに照らされて、吸い寄せられるように近づいていく。
「あの……スペスさん」
突然近くから声がして、ふたりはパッと勢いよく離れた。
意味がわからず、思わずアルマは立ちあがった。
「んー、ボクらが無事に帰るためには、やっぱり、あいつらに勝たないとダメな気がするんだ」
支度をつづけながら、スペスは言う。
「だって――あいつらが勝ってそのままココに居座ったら、あの神殿のあたりは調べられなくなる」
「それならせめてっ、メイランさんが来てくれるまで待てばいいじゃないっ!」
「ダメだよ……」とスペスは首をふった。
「それだとアールヴの人達に、かなりの犠牲が出ちゃう。ヘタをしたら全滅に近いくらいの……」
「そうかもしれないけどっ、だからってスペスが行ってどうなるのよ!」
アルマは、どうにかしてスペスに思いとどまらせようと説得する。
「いまから行っても、どうにもならないわよっ。コレは、とっくに起こった事なのっ。
三百年後にここのひと達は……、もう、いなくなっていたんだから……。スペスが行ったからって、何も変わらないじゃない……」
「そうだけど、そうじゃないんだよ」
スペスが落ち着いた声で言った。
「確かに、〝その過去〟にボクらはいなかった。アールヴとメイランさんとの接点もなかったはずだ。でも――〝その過去〟と、ボクらがいる〝この今〟は同じじゃないんだよ」
――だって、ボクらがいるんだから。
そうスペスは言った。
「だからさ、〝未来〟がどうなるかはわからないけど……、ボクが何かをすれば、結果はぜったい同じ事にはならない。……そうボクは思うことにした」
静かにスペスは語る。
「ボクは……ボクらがリメイラに帰るために、そして、アールヴの人たちが滅ぼされないように、今できることは、やっておきたい」
「そんなことを言ってもっ!」
アルマは、支度を続けるスペスの服にしがみついた。
「いま行ったら、死んじゃうかもしれないのよ! あの化け物に殺されて、食べられちゃうかもしれないのっ!
これが……わたし達が会える……、最後になるかもしれないんだよっ!」
アルマの大きな声が、穴のなかに残響をのこす。
「大丈夫だって。ボクは死なないよ」スペスは言った。
「ボクは、アルマをリメイラ村に帰さなきゃいけないからね」
「そんなの、もういいからっ!」
アルマは叫んだ。
「そんなの、もういいのっ! お願いだからここにいてっ!
わたしを……置いて行かないで! わたしを……ひとりにしないでよ……お願い……します」
スペスにすがりつき、その瞳をじっと見る。
「ごめん……」とスペスが言った。
「――ボクだって、アルマを置いて行きたくはない。でも、長老さんやタッシェを、この先ひとりぼっちにもしたくないんだ。もし助けられるなら、ボクは……アールヴを助けたい」
「嘘……つき」
目を伏せてアルマは言った。
「スペスはわたしを守ってくれるんじゃ……なかったの?」
「ごめん……」
スペスが言うと、しばらく沈黙がながれた。
「わかったわよ」
うつむいたまま、アルマは言った。
「勝手にどこだって行けばいいじゃない! スペスはバカなんだからっ! 知ってたわよ!」
「ごめん……」
また――スペスがあやまった。
「いいわよ……」下を見たまま、アルマは言った。
「スペスは、頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないけど、ついでに言うならスケベで約束も守れない事ぐらい……知ってたわよ!」
「なんでいま、言い直したの……?」
「頭が悪くて常識が欠けていて、言うことがつまんないし、無益で役にも立たないし、ついでに言うならスケベで約束も守らないけど――
いつもスペスは何かに一所懸命なのよね……それはよく知ってるから……」
だから……もう止めない。
けどっ――
顔を上げたアルマは、涙をあふれさせながら、潤んだ声で精一杯に言った。
「無茶してもいいっ! 怪我をしてもいい! わたしが治してあげるっ! だからっ……お願いだからぁっ! 絶対に死なないでぇぇっ!」
泣きながらそう訴えるアルマを、スペスは無言で引き寄せ、抱きしめた。
「わかった。ボクは死なない。無茶なこともしない。約束するよ」
「嘘……つき」
頬を濡らしたアルマも、腕を回してスペスを抱きしめる。
そのままふたりは、しばらく無言で抱きあった。
やがて、スペスがそっと手をゆるめると――ふたりはすこしだけ離れた。
お互いの顔を見つめあうふたりの唇が、僅かな灯りに照らされて、吸い寄せられるように近づいていく。
「あの……スペスさん」
突然近くから声がして、ふたりはパッと勢いよく離れた。