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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第77話 『起きてよ、アルマ⁉』
****作者注****
今回、ちょっと長いです。
(文体もわざと読みにくくしてあります)

読むのが面倒になった方は、
最後の10行あたりまで読み飛ばしても問題ありません。
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 気がつけば、アルマは暗い森のなかにいた。

 夜なのかと思ったが、空には雲も月も星もみえず、空はただの黒だった。
 明かりになるようなものはなにも無かったが、地面や木は見えていた。足元に道があり、生き物の気配はしなかった。

 アルマはしかたなく道に沿って歩きだした。しばらく歩くと小屋があった。
 どこかで見たことがあるような丸太小屋だった。

 アルマは近づいて入ろうとしたが、手がふさがっていた。
 いつの間にか両手にコップが握られていた。
 なかにはお茶が入っていて、薬草茶のにおいがした。

 これじゃあドアが開けられない、と思ったアルマは、行儀が悪いとおもったが、片足のつま先でコンコンとドアをノックした。
 ドアは音もなくひらいた。
 いやキィ、といったかもしれなかった。

 暗い室内に入るとまんなかの椅子にちょこんと、クマのぬいぐるみが座っていた。
 子供があそぶような大きさだったので、椅子が大きく見えた。
 黒くて丸い目でアルマを見ていた。

「やや、こやつめ、どこから来た?」
 声がして、部屋の中にウサギ、ネコ、ヤギのぬいぐるみがあらわれた。

「ここはお前のくるところじゃないぞ」
 反対からも声がして、ネズミ、サル、兵隊のぬいぐるみがあらわれた。

 アルマはなにか言い訳をしようとしたが、ぬいぐるみたちは椅子に座ったクマの方に集まった。ウサギが近づいてクマの耳を引っ張った。クマは力なく、椅子から落ちた。
 ネズミがクマの手をひっぱった。サルがクマの上にのって踏みつけた。兵隊はスプーンみたいな大きさの剣で叩いた。ネコとヤギが片足ずつを持って反対にひっぱった。
 ぬいぐるみたちは皆、笑ったかたちに口を縫いつけられていて、それがかえって不気味だった。
 うつ伏せになったまま暴行をうけるクマは、なにも言わなかった。
 ただその目はアルマを見ていた。

「やめなさいよ!」とアルマは片手に持ったお茶を、ぬいぐるみたちにかけた。
「ぐあぁぁぁ」という声とともに、ウサギとサルとネズミが白い煙となって消えた。
 効いてると思ったアルマは反対側のお茶もかけた。
「ぎゃぁぁぁ」と言ってネコとヤギと兵隊のぬいぐるみも消えた。

 クマは倒れたまま動かなかったが、ありがとうと言った気がした。
「行きましょ」
 そう言ったアルマは、いつのまにか手に持っていた縄をクマにしばりつけ、そのままひきずり、小屋を出た。

 そとに出ると小屋は、すぅっと薄くなって消えた。アルマはクマをひきずりながら、また道を歩きだした。
 道の向きや形がさっきとちがう気がしたが、気にしなかった。

 歩いていると、とてもキレイな、鳥の鳴き声をきいた。

 道が広くなっていて、その真ん中に一本の木がはえていた。
 木は立ち枯れていて、枝は折れ、幹は白くなっており、折れた枝に鳥カゴがかけられていた。

 鳥カゴには、尾の長い、黄色い鳥がいた。
 鳥はアルマにむかって何度もさえずり、アルマはしばらく、そのキレイな声に聞き入った。

 やがてアルマは鳥の持ち主が近くにいるんじゃないかとあたりを見回したが、誰もいなかった。鳥カゴは長いことそこに置かれていたようで、とても古びていた。しかたなくアルマは木から鳥カゴをはずして手に持った。

 片手でクマをひきずって、片手に鳥カゴをさげて、アルマはまた歩き出した。
 歩いているうちに、アルマは鳥の食べ物がないのが気になった。

 道に生えていた草を入れてみたが、鳥は食べなかった。
 木についていた赤い実を入れても食べなかった。
 飛び跳ねる虫も、死んだ動物の肉も食べなかった。

 鳥はみるみるうちに弱っていった。
 鳴かなくなり、飛ばなくなり、ただカゴのなかでうずくまった。
 鳥の食べたい物がわからなかったアルマは、食べ物を自分で探せるようにと、鳥を逃がすことにした。

 アルマが鳥カゴをあけると、弱っていた鳥はよろよろと起き上がり、鳥カゴの口から飛び立った。
 アルマはよかったと安心したが、奇妙な事が起きた。
 鳥が通ったあとの森が枯れだしたのだ。

 木の葉は、みるみるうちに茶色く変わりザザッという音を立てて落ちた。
 地面の草も枯れ、小川は干上がり、池の水は黒く悪臭を放った。

「あの鳥は出してはいけなかったんだわ!」
 そう思ったアルマは、鳥カゴとクマの縄をもって走りだした。

 走ってるあいだずっと引きずられていたクマは、枯れ草に埋まり、石にぶつかり、枯れ葉のうえを転がって、枯れた木に引っかかった。
 立ち止まったアルマは、ボロボロになったクマの縄を解いて服の胸元に入れた。
 クマは、アルマの服から頭だけを出していた。

 そしてまた、アルマは走りだした。鳥の行った方向は、森が枯れていたのですぐにわかった。

 立ち枯れた森を走っていくと、ひとりの老人が切り株に座っていた。
 老人はつば付きの帽子をかぶり、集めた枯れ葉で焚き火をしていた。

「すいません、ここに黄色い鳥がきましたか?」
 アルマは訊いた。
「ああ、来たとも。向こうへ飛んでいったよ」
 方向が間違っていなかったので、アルマは、よかったと思った。

「お嬢さん。その鳥カゴはもう不要じゃろう、よかったらワシにくれまいか?」
 鳥を捕まえるのに鳥カゴは必要なはずだが、アルマには、老人の言うことが、そのとおりに思えた。
「わかりました、どうぞ」
 アルマはそう言って、鳥カゴを渡した。

「ありがとう、お礼にこれを差し上げよう」
 老人はアルマに装飾のついた木の箱を差し出した。
 開けてみると、なかにはきれいなガラス玉が六つ、並んで入っていた。

 ガラス玉はありふれた、特別なところのないものだったが、それを見たアルマは、綺麗だと思った。
 アルマは老人にお礼を言ってまた鳥を追いかけることにした。

 走り出す前に、アルマは箱のガラス玉をもう一度見た。
 眺めていると、心がおどる気がした。
 そのうちひとつを手に持って、のこりの箱をポケットにしまい、アルマは走りだした。

 しばらく走った時、アルマは木の根につまづいて転んだ。怪我はしなかったが、手に持っていたガラス玉が、粉々に砕けた。
 アルマは残念に思ったが、ガラス玉はまだ五つもあったので、また箱からひとつ取り出して手に持った。

 また走っているとき、アルマは手を滑らせてガラス玉を落とし、ガラス玉が粉々に砕けた。
 しかたなくアルマはまたひとつを取り出した。ガラス玉はどうしても手に持っていたかった。

 また走り出すと、今度は木の枝にぶつけてしまいガラス玉が砕けた。
「あとみっつしかない大事にしないと」
 そう思いながら箱を開けて、アルマは驚いた。ガラス玉はひとつしかなかった。箱の蓋が開いていて落としてしまったに違いない、アルマはそう思って、ポケットの中も見たが、なかった。

 最後のひとつになったガラス玉を、アルマは大事そうに両手で持ち、また走りだした。
 鳥は、森を枯らしながら丘を登っているようだった。アルマも、鳥を追いかけて丘を駆けのぼった。

 大事に持ったガラス玉が、その手の中で強くひかりだしていたが、夢中で走るアルマはそれに気づかなかった。
 手から漏れたひかりが胸元のクマをあかるく照らしていた。

 とうとうアルマは丘の上についた。
 そこには、たくさんの大きな石が、まるく並べられていた。
 アルマはこの場所に見覚えがあったが思い出せなかった。

 鳥は真ん中にある丸い石にとまっていた。
 その体は光り輝き、さらに、アルマの何倍も大きくなっていた。
 巨大な鳥は、もう逃げなかった。

 アルマが近づくと、手の中のひかりがさらに強くなった。
 手をひらくと、持っていたガラス玉は、光るおおきな宝石になっていた。
 宝石に照らされて、ぬいぐるみのクマが光りだし、その光がアルマの全身を覆った。

 光が収まると、クマは美しい模様がついた白銀の鎧に変わって、アルマをつつんでいた。
 手に持った宝石は、黄金にかがやく長い剣になった。

 鳥を見上げたアルマは、迷わずその背に登った。
 鳥はひとつ鋭く鳴くと、羽をひろげて飛び立った。

 ぐんぐん高度を上げていく鳥の背にしがみついたアルマは、鳥が森を枯らすことを思い出し、あわてて下を見た。
 だが、下には緑に輝く森があるだけで、枯れた木は、一本も見えなかった。

 空はいつのまにか青く明るくなり、太陽が森をてらしていた。
 川はキラキラとひかり、遠くの山々は青く澄んで見えた。
 アルマを乗せた鳥は空に向かって、どこまでもどこまでも高くのぼっていった。

 唐突につよい風が吹いて、鳥が左右に揺さぶられた。目をとじて、必死にしがみついたアルマの身体も左右に揺さぶられた。

「……ルマ」
 声がきこえ、身体がさらに揺れた。ギュッとしっかり目をつぶる。

「……ェイヴ、アルマ!」
 また声がした。身体の揺れがさらにひどくなる。

「レヴェイヴ! アルマ!」
 聞き覚えのある声がして、ゆっくりとアルマは目をあけた。
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