残酷な描写あり
R-15
第81話 『立ち上がれアルマ⁉』
――なんでもいい……考えるんだ! いま……わたしにできることを!
身体の動かないアルマは、必死になって、頭を働かせる。
――もしも……スペスがいたら、どうしただろう?
スペスなら……、きっとオーガが身動きが取れないうちに……穴を通っているあいだに攻撃した。
自由に動けるところまで出さなかった……。
まだクラクラと揺れる目に映るオーガは、もうタッシェの近くまで迫っていた。
――メイランさんだったら……始めから、あんなのには負けない。
そもそも……こんな絶望的な状況にすらならない。
でも……絶望的な時に、どうすればいいのかは訊いたことがあったな……
たしか――
『……もし戦いになって、それでも勝てそうもない時はどうですか? 数がすごく多いとか、強いゴブリンだったとか――』
そう訊いたアルマに、メイランは言った。
『そうだな……、どれだけ絶望的な状況になったとしても、
まず頭だけは冷静にしておくことだ。
それから、いま自分が使えるものを確認しろ。
武器、道具、技術、状況、環境……。
そこに、わずかでも残っている可能性を探せ。
そうやってわずかでも勝機を掴もうとする奴しか生き残れないのが戦場だからな』
――そうだ……、まず頭を冷静に……。
アルマは気持ちを落ち着けようと、深く深く、ゆっくりと呼吸する。
そうしていると、すこしだけ恐怖が鎮まっていく気がした。
――わたしに使えるもの……。頑丈な武器と、それを振りまわせる《強化》、それに、治癒の魔法……。
そう思いながら、タッシェに向かうオーガを眺めると――その背中は隙だらけで、もし全力の一撃を当てる事が出来たら、アルマでも倒せそうだった。
――ゴブリンが倒せたみたいに、オーガだって傷もつけば血も出る……。
より強い力で叩けば、きっと傷つけられるし、倒せる……はず。
勇者様がやったみたいに……。
そう気持ちを切り替えると、オーガが少しだけ小さく見えた。
それは――メイランとの特訓で、あんなに恐ろしかったメイランが、急に等身大に見えた時と似た感覚だった。
――でも、痛みで身体が動かない……なら、まずは痛みを消す。
アルマは体内の魔力を活性化させ、痛む箇所に《治癒》の魔法をかける。すぐに全快とはならないが、いくらか痛みが引いていく。さらに《痛み止め》をかけると、完全に痛みが消えた。
そうして、ひとつ行動すると、やれるんじゃないかという気持ちが湧いてくる。
オーガはもうタッシェのそばにいた。
――急いで……! つぎは……力を強く!
そう思い、全身に《強化》の魔法をかける。
動かした魔力によって強化された体に力が入る。動かなかった脚が、動いた。
『――いざって時になれば、お前にもアタシの言ってることが分かるだろうさ』
そんなメイランの言葉がうかび、アルマは木剣に寄りかかるように、よろよろと立ちあがる。
タッシェをつまみあげたオーガは、ぐったりとなった体からボタボタと流れ落ちる血を舐めている。
――まだ足りない! もっとだ!
焦る気持ちを抑えて、アルマは《強化》を重ねてかける。
動かす魔力の速度をさらに上げると、体内を高速でめぐった魔力により、アルマの身体が黄色い光を放ちはじめた。
――これなら……きっといける!
そう確信したアルマは、まっすぐに立つと、木剣をしっかり握りしめ、オーガに向かって叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉおっ‼」
タッシェに喰いつこうとして、口を開けたオーガの動きが止まる。
食事を邪魔されたオーガは、じろりとアルマを睨んだが、全身から光を放つアルマを見て、ビクッと体を引いた。
アルマは身体の状態を確かめながら、一歩づつ、オーガに近づいてゆく。
持ち上げていたタッシェをおろしたオーガが、『ぐるるるるる……』と唸り声を出した。
穴の中に来て初めて、アルマはオーガの声を聞いた。
圧倒的優位に立つものが、格下の弱者に吠えたりする事はない。
ついさっきまで、オーガはこの場所において絶対の強者で、アルマはただの餌でしかなかった……はずだった。
アルマは、なにか状況が変わったことを理解する。
アルマが前に出ると、オーガが一歩さがった。
二歩出ると、さらに一歩さがった。
壁際まで追いこまれたオーガの背中が、低くなった天井につく。
オーガの手から、どさりとタッシェがおちた。
その瞬間、問題なく身体が動くことを確認したアルマは、地面を蹴ってオーガに飛びかかった。
身体の動かないアルマは、必死になって、頭を働かせる。
――もしも……スペスがいたら、どうしただろう?
スペスなら……、きっとオーガが身動きが取れないうちに……穴を通っているあいだに攻撃した。
自由に動けるところまで出さなかった……。
まだクラクラと揺れる目に映るオーガは、もうタッシェの近くまで迫っていた。
――メイランさんだったら……始めから、あんなのには負けない。
そもそも……こんな絶望的な状況にすらならない。
でも……絶望的な時に、どうすればいいのかは訊いたことがあったな……
たしか――
『……もし戦いになって、それでも勝てそうもない時はどうですか? 数がすごく多いとか、強いゴブリンだったとか――』
そう訊いたアルマに、メイランは言った。
『そうだな……、どれだけ絶望的な状況になったとしても、
まず頭だけは冷静にしておくことだ。
それから、いま自分が使えるものを確認しろ。
武器、道具、技術、状況、環境……。
そこに、わずかでも残っている可能性を探せ。
そうやってわずかでも勝機を掴もうとする奴しか生き残れないのが戦場だからな』
――そうだ……、まず頭を冷静に……。
アルマは気持ちを落ち着けようと、深く深く、ゆっくりと呼吸する。
そうしていると、すこしだけ恐怖が鎮まっていく気がした。
――わたしに使えるもの……。頑丈な武器と、それを振りまわせる《強化》、それに、治癒の魔法……。
そう思いながら、タッシェに向かうオーガを眺めると――その背中は隙だらけで、もし全力の一撃を当てる事が出来たら、アルマでも倒せそうだった。
――ゴブリンが倒せたみたいに、オーガだって傷もつけば血も出る……。
より強い力で叩けば、きっと傷つけられるし、倒せる……はず。
勇者様がやったみたいに……。
そう気持ちを切り替えると、オーガが少しだけ小さく見えた。
それは――メイランとの特訓で、あんなに恐ろしかったメイランが、急に等身大に見えた時と似た感覚だった。
――でも、痛みで身体が動かない……なら、まずは痛みを消す。
アルマは体内の魔力を活性化させ、痛む箇所に《治癒》の魔法をかける。すぐに全快とはならないが、いくらか痛みが引いていく。さらに《痛み止め》をかけると、完全に痛みが消えた。
そうして、ひとつ行動すると、やれるんじゃないかという気持ちが湧いてくる。
オーガはもうタッシェのそばにいた。
――急いで……! つぎは……力を強く!
そう思い、全身に《強化》の魔法をかける。
動かした魔力によって強化された体に力が入る。動かなかった脚が、動いた。
『――いざって時になれば、お前にもアタシの言ってることが分かるだろうさ』
そんなメイランの言葉がうかび、アルマは木剣に寄りかかるように、よろよろと立ちあがる。
タッシェをつまみあげたオーガは、ぐったりとなった体からボタボタと流れ落ちる血を舐めている。
――まだ足りない! もっとだ!
焦る気持ちを抑えて、アルマは《強化》を重ねてかける。
動かす魔力の速度をさらに上げると、体内を高速でめぐった魔力により、アルマの身体が黄色い光を放ちはじめた。
――これなら……きっといける!
そう確信したアルマは、まっすぐに立つと、木剣をしっかり握りしめ、オーガに向かって叫んだ。
「やめろぉぉぉぉぉおっ‼」
タッシェに喰いつこうとして、口を開けたオーガの動きが止まる。
食事を邪魔されたオーガは、じろりとアルマを睨んだが、全身から光を放つアルマを見て、ビクッと体を引いた。
アルマは身体の状態を確かめながら、一歩づつ、オーガに近づいてゆく。
持ち上げていたタッシェをおろしたオーガが、『ぐるるるるる……』と唸り声を出した。
穴の中に来て初めて、アルマはオーガの声を聞いた。
圧倒的優位に立つものが、格下の弱者に吠えたりする事はない。
ついさっきまで、オーガはこの場所において絶対の強者で、アルマはただの餌でしかなかった……はずだった。
アルマは、なにか状況が変わったことを理解する。
アルマが前に出ると、オーガが一歩さがった。
二歩出ると、さらに一歩さがった。
壁際まで追いこまれたオーガの背中が、低くなった天井につく。
オーガの手から、どさりとタッシェがおちた。
その瞬間、問題なく身体が動くことを確認したアルマは、地面を蹴ってオーガに飛びかかった。