残酷な描写あり
R-15
第83話 『わたし、行ってきます⁉』
「わたし、行ってきます!」
アルマは迷いのない声でそう言った。
「そうですか」
と長老が微笑む。
「でしたら私どもの事は心配いりません。少しづつではありますが身体も動くようになってきました。もう、これ以上の治療は無用です」
たぶん嘘だ――とアルマは思った。
全部嘘ではないのだろう、灯りに照らされた長老の顔色はさっきよりもだいぶ良くなっている。
だからといって、そんなすぐに動けるようにはならないのは、アルマにも良くわかっていた。
それでもアルマは、わかりました、と言った。
その答えに、長老が満足そうにうなずく。
アルマは、布を持ってきてタッシェを寝かせると、近くにもう一つ敷いた。
「あ……そうだ、木剣は持っていっちゃうから、代わりの灯りがいりますよね?」
と、転がっている木剣を指さす。
「必要ありません」
長老は首をふった。
「我々は暗闇でも目が効きます。今は少しでも魔力を温存してください」
「そうなんですか?」
とアルマは訊いたが、それはなんとなく、嘘じゃない気がした。
手早く身支度をすませたアルマは、光る木剣を取って立ちあがる。
「それじゃあ、行ってきます」
「御武運を」と長老は言った。
「アルマさん無事に帰ってきてくださいね。ぜひとも皮のむき方を教えて差し上げたいので」
「その話まだ続いてたんですか?」
とアルマは笑った。
「それならもう知ってるから、いいですってば!」
「えっ……? 『やったことない』と、おっしゃっていませんでしたか?」
「そ、それは……もうっ、わかってるくせに。カリンガの実だったら、ありますよ」
苦笑いするアルマに、長老は真顔で言った。
「いえ、殿方のを……なのですが」
「だから、どこの⁉」
「いやですわ、アルマさん――」
長老は恥ずかしそうに顔に手を当てる。
「子供がいるのに、そんなことを言わせようだなんて……」
「あーっ、もうっ! わかりましたよっ!」
顔を赤くして、アルマは言った。
「言ったことは取り消せませんからね! 必ず、絶対にっ! 帰ってから、詳~しく教えてもらいますからねっ!」
「ええ……必ず」と長老が微笑んだ。
「じゃあ……」自然に声がちいさくなった。
「行ってらっしゃいませ」と長老が言う。
「あっ……そうだ。アレは邪魔だろうから、持っていっちゃいますね」
そう言ってアルマは、オーガの死体を指さした。
「えっ? ええ……、そうして頂けるなら助かりますが……」
「まかせてください!」
アルマは頭の潰れたオーガの脚を持ち、外に出る穴まで引きずっていくと、一度長老のほうを見てから、穴に入っていった。
あとを付いていくように、オーガの身体がずるずると引きこまれていく。
「なんだか……、逞しくなりましたね」
長老はそうつぶやくと、アルマの用意した布に力なく倒れこんだ。
アルマが外に出ると、空は夕方のまぶしい赤から濃い青へと、色を変えているところだった。あたりの山々には、すこしづつ夜の気配が漂いはじめている。
出たところは斜面の中腹で、周りには木や草が茂っていたが、穴の上が大きく崩れていて、ポッカリと外から見えていた。
アルマは、引きずってきたオーガの死体を斜面の下に落とすと、木剣でまわりの土を崩して穴を小さくし、木や草で隠す。
突然、風が強く吹き、立ち上がったアルマの髪がくしゃくしゃに巻きあげられた。
「これじゃあ、邪魔……よね」
両手で髪をまとめあげたアルマは、縛るための紐を出そうとして、やや迷い、かわりに草を払う鉈を取り出す。それを首のあたりで髪に当てると、ためらわずに一気に引き切った。
アルマが、そっと握った手をはなす。
切った髪は、空にまだ残る明るさを映しながら、キラキラと舞うように風に乗り、飛んで消えた。
「よし!」とアルマはうなずいた。「早くスペスを探さないと……」
まわりの山を見て、位置を確認したアルマは、集落の方向を目指して斜面を登っていった。
アルマは迷いのない声でそう言った。
「そうですか」
と長老が微笑む。
「でしたら私どもの事は心配いりません。少しづつではありますが身体も動くようになってきました。もう、これ以上の治療は無用です」
たぶん嘘だ――とアルマは思った。
全部嘘ではないのだろう、灯りに照らされた長老の顔色はさっきよりもだいぶ良くなっている。
だからといって、そんなすぐに動けるようにはならないのは、アルマにも良くわかっていた。
それでもアルマは、わかりました、と言った。
その答えに、長老が満足そうにうなずく。
アルマは、布を持ってきてタッシェを寝かせると、近くにもう一つ敷いた。
「あ……そうだ、木剣は持っていっちゃうから、代わりの灯りがいりますよね?」
と、転がっている木剣を指さす。
「必要ありません」
長老は首をふった。
「我々は暗闇でも目が効きます。今は少しでも魔力を温存してください」
「そうなんですか?」
とアルマは訊いたが、それはなんとなく、嘘じゃない気がした。
手早く身支度をすませたアルマは、光る木剣を取って立ちあがる。
「それじゃあ、行ってきます」
「御武運を」と長老は言った。
「アルマさん無事に帰ってきてくださいね。ぜひとも皮のむき方を教えて差し上げたいので」
「その話まだ続いてたんですか?」
とアルマは笑った。
「それならもう知ってるから、いいですってば!」
「えっ……? 『やったことない』と、おっしゃっていませんでしたか?」
「そ、それは……もうっ、わかってるくせに。カリンガの実だったら、ありますよ」
苦笑いするアルマに、長老は真顔で言った。
「いえ、殿方のを……なのですが」
「だから、どこの⁉」
「いやですわ、アルマさん――」
長老は恥ずかしそうに顔に手を当てる。
「子供がいるのに、そんなことを言わせようだなんて……」
「あーっ、もうっ! わかりましたよっ!」
顔を赤くして、アルマは言った。
「言ったことは取り消せませんからね! 必ず、絶対にっ! 帰ってから、詳~しく教えてもらいますからねっ!」
「ええ……必ず」と長老が微笑んだ。
「じゃあ……」自然に声がちいさくなった。
「行ってらっしゃいませ」と長老が言う。
「あっ……そうだ。アレは邪魔だろうから、持っていっちゃいますね」
そう言ってアルマは、オーガの死体を指さした。
「えっ? ええ……、そうして頂けるなら助かりますが……」
「まかせてください!」
アルマは頭の潰れたオーガの脚を持ち、外に出る穴まで引きずっていくと、一度長老のほうを見てから、穴に入っていった。
あとを付いていくように、オーガの身体がずるずると引きこまれていく。
「なんだか……、逞しくなりましたね」
長老はそうつぶやくと、アルマの用意した布に力なく倒れこんだ。
アルマが外に出ると、空は夕方のまぶしい赤から濃い青へと、色を変えているところだった。あたりの山々には、すこしづつ夜の気配が漂いはじめている。
出たところは斜面の中腹で、周りには木や草が茂っていたが、穴の上が大きく崩れていて、ポッカリと外から見えていた。
アルマは、引きずってきたオーガの死体を斜面の下に落とすと、木剣でまわりの土を崩して穴を小さくし、木や草で隠す。
突然、風が強く吹き、立ち上がったアルマの髪がくしゃくしゃに巻きあげられた。
「これじゃあ、邪魔……よね」
両手で髪をまとめあげたアルマは、縛るための紐を出そうとして、やや迷い、かわりに草を払う鉈を取り出す。それを首のあたりで髪に当てると、ためらわずに一気に引き切った。
アルマが、そっと握った手をはなす。
切った髪は、空にまだ残る明るさを映しながら、キラキラと舞うように風に乗り、飛んで消えた。
「よし!」とアルマはうなずいた。「早くスペスを探さないと……」
まわりの山を見て、位置を確認したアルマは、集落の方向を目指して斜面を登っていった。