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作者: 細矢ひろゆき
残酷な描写あり R-15
第85話 『ふたりのコンビネーション⁉』
(それじゃあ、ボクがあいつを引きつけるから、アルマは《姿隠し》で後ろに回って隙をうかがってくれ……)
(……わかったわ)

(それと、ひとつ聞きたいんだけど。魔法ってさ、すこし時間がたってから効果を出すことはできる?)
(できるわよ。早くするのは大変だけど、遅くするのはそんなに難しくないわ)

(じゃあさ――)とスペスは、カバンからスリングにつかう石を取り出した。
これに《灯り》の魔法をかけてくれる?)

(そんなことしたら、見つかっちゃうじゃない)
(だからさっき言った〝遅くするヤツ〟をやってよ――大丈夫、これであいつを誘導してやるんだ)

 スペスは自信ありげだった。
 こういう時のスペスは、なぜか頼もしいな、と思いながらアルマはうなずく。

(わかった。どのくらい遅らせたらいいの?)
(うーん五つかぞえるくらいで、いいんじゃないかな?)

(明るさは?)
(明るさ?)

(《灯り》の強さよ。まぶしいくらいに明るくすることも出来るわ。そのぶん時間が短くなっちゃうけどね)
(ああ、なるほど……)と、スペスはなにかに納得していた。

(《点火》を教わった時に、イオキアさんが火を大きくして、あっという間に燃やした奴と同じだね)
(そういうこともできるわね。それで、どうするの?)

(いや……明るさはふつうでいいよ)
 石を渡したスペスは、そう言ってスリングを用意する。
(わかった。じゃあやるわよ――)

 受けとった石に《灯り》をかけ、アルマはすぐに手渡す。
 スペスがすばやくスリングに石を入れ、サッとひと振りして投げた。

 飛んでいった石はすぐに見えなくなったが、オーガとは離れた場所でガサッという音がして、淡い光が周りの木々を照らす。気づいたオーガが、あかりの方へ向かうのが見えた。

(よし、うまくいった。……じゃあアルマは、後ろからね)
 スペスはそう言って、足音を殺しながら石のほうへ進んでいく。

 アルマも《姿隠し》をかけ、後ろに回りながらに、慎重にオーガへと向かった。
 ときどき音を出して気づかれそうになったが、《姿隠し》のおかげで、じっとしていれば見つからなかった。

 だが、なんとなく気配を感じているのか、オーガはひどく警戒し、何度も後ろをふり返っていた。

 やがて、光る石のところについたオーガは、そこに誰もいないことが分かると、さらに警戒を強めて、あたりを見まわす。

――あんなに構えられると、やりづらいわね……。

 逃げたり仲間を呼ばれないように、出来るだけ早く倒したかったが、警戒する相手に不意を打つのは難しい。ここで焦って、仕損じるわけにもいかなかった。

 アルマは《姿隠し》をかけたままじっとして、オーガに隙ができるのを待つ。


 突然ガサッという音がして、反対の茂みからスペスが立ちあがった。
 音に反応してオーガが振り向いた瞬間に、スペスがスリングでなにかを飛ばす。

 不意を打たれたオーガの顔にぱっと煙のようなものが上がり、オーガが顔を押さえた。
 目に何か入ったらしいオーガはうなり声をあげながら、闇雲に腕を振りまわす。

「こっちだ! こっち!」
 手を叩いて挑発されたオーガが、スペスのほうへ向きを変えた時、アルマにはちょうどその背中が丸見えになった。

――今だっ!
 とアルマは茂みから飛び出す。

 オーガは頭の位置が高いうえ、老人のように背中を曲げている。
 後ろからは頭が狙いにくかった。そのうえ腕を振り回されると胴も難しい。

 それならっ――と姿勢を低くしたアルマは、オーガの横に滑りこみ、その片足を後ろから前へと思いきり打ち払った。

 オーガの脚が前へ高くあがり、バランスをくずしたオーガの体が、ゆっくりと後ろに倒れていく。
 打ち払った動きからくるりと回転したアルマは、そのまま木剣を上段に構えた。

 ドシンという音をたててオーガが倒れ、その背中が地についたとき、無防備になったオーガの顔面にアルマの木剣が叩きこまれる。
 グシャっという音がしてオーガの体がビクンッと跳ね、そのまま幾度かの痙攣を繰り返したあと、すぐに動かなくなった。

 緊張を解いて木剣を下ろしたアルマに、スペスが駆け寄った。
「すごいね、アルマ!」
「うんっ」とアルマはうなずいた。

「なんていうか、調子がいいの」
「ハッ! まさか……アルマの皮を被ったオーガ……じゃないよね?」

「いやだわ。こんな、かよわい乙女をつかまえて、なんてことを訊くの?」
「かよわい乙女は、オーガを倒さないんだけど⁉︎」
「いいの! わたしがかよわいって言ったら、かよわいの! わかったか!」

 だがスペスは、しずかに首をふった。
「いや、わからないね!」とアルマに指を突きつける。
「たとえ、かよわかったとしても、それだけで本物のアルマだという証明にはならない!」

「なるほど……いいでしょう!」
 と、尊大にアルマはうなずいた。
「わたしが本物だってことを証明してあげる。さぁ、なんでも聞きなさい。どんな質問にも答えてあげるから!」

「どんな質問でもっ⁉」
「もちろんよ。わたしは、スペスが何歳までおねしょしてたのかも知ってるんだから」
「ボクが知らないことまで知ってるの⁉」

「あら、この程度でおどろいたのかしら? なら、おとなしく負けを認めなさい。あなたはかわいくて美人で頭も性格もいい本物のアルマさんだと!」

「いやっ! まだだ……まだだよ! それだけでボクを信じさせるには足りない! もし本物のアルマなら、これが言えるはずだっ!」
「あら、なにかしら?」

「本物のアルマは、いつも、『スペスのことが、大好き!』って、言ってるんだ!」
「あらあら、そんなことでいいの? 簡単じゃない」
 アルマは余裕の表情を浮かべた。

「えっ、じゃ……じゃあ言ってみてっ!」
 スペスが期待に満ちた顔でそわそわとする。

「い、いいわよ……」
 アルマは、コホンとひとつ咳をした。
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