残酷な描写あり
R-15
第97話 『友達はいなかった⁉』
「ありがと……、もう、だいじょぶ。だから……」
しばらくして――落ちついたアルマは、鼻をすすってからパッと離れた。
「痛っ!」
と思わずスペスが声を出す。
「あっ――ごめんねっ、すぐに診るからっ! 座れる?」
アルマに肩を支えられ、よろよろとスペスが座りこむ。
「わたしも魔力が少ないから、すぐに全部は治せないけど――」
「いいさ」とスペスは顔をしかめて言った。
「……でも《痛み止め》だけはかけてくれるかな?」
アルマはうなずいてすぐに《痛み止め》をかけると、スペスの身体を看ていくが――
「な……なによこれっ!」
黒く焼け焦げた左手を見て、声をあげた。
「いったい何をしたの! 表面どころか、中まで煮えちゃってるじゃない! 早く処置をしないと、手が無くなっちゃうわよ!」
「ちょっと――火遊びを……ね」とスペスは笑う。
「はぁ……まったく。無茶してもいいとは言ったけど、ほんとに無茶するんだから……」
「ゴメン……」
「いいわよ」と仕方なくアルマは笑みを浮かべた。
「それでも生きててくれた……から」
「ボクもそう思う」
スペスがうなずくと、ふたりは笑って見つめ合う。
そこへ割って入るように、甲高い声が聞こえてきた。
「どーなってるっ! なんで〝チャンぴオン〟が倒れてるのだわ!」
ふたりからだいぶ離れた場所。森との境目に、黒い長衣をまとった小柄な人影が見えた。
「あー、忘れてたなぁ……」
トロルの影から様子をうかがったスペスは、そう言ってよろよろと立ちあがった。
「ちょっと⁉︎ まだ動いちゃダメだって……!」
止めようとするアルマも、トロルの身体に隠れて声の方をのぞき見る。
「……誰よあれ? スペスのお友達? それなら、スペスに初めてお友達ができたことを、お祝いしないといけないのだけど……」
「あれ? それって、ボクとアルマはまだ、友達にもなってない、ってこと?」
「もちろん完全に他人よ」
「そんなぁ~」
「わたしと友達になりたいなら、忠誠と絶対服従を誓ったうえで、貢ぎ物をしないとなれないのよ?」
「そんな上下関係がキツい友達がいるかよ! ボクは、そういうのじゃなくて普通の友達のほうがいいなぁ……」
「わかったわ」とアルマはうなずく。
「じゃあ、わたしはスペスの想像上の友達ってことでいいわよ」
「それ、現実にはいないヤツだよね⁉︎」
「そうだけど? いいじゃない、わたしとあなたは、頭の中では友達よ?」
「それじゃ、いないのと変わらないでしょ」
「あら、頭の中にだけいるのと、頭の中にもいないの、だったら……」
アルマはすこし考える。
「まあ、わたしにはどっちでもいいわね」
「ボクには、どっちもよくないんだけど! それでもせめて考える振りくらいはしてほしいな!」
「検討するわ」とアルマは流した。
「それで、あの人はあなたのお友達じゃないの?」
「ちがうよ。まあ〝敵〟かな」
「そう、よかった」
「なんで?」
「スペスに、友達はいなかったのね」
「頑なにボクと友達じゃないアピールをしてくる所と、ボクに友達がいないのを喜んでる所の、どっちから先に突っこんだらいいのかな⁉︎」
「そのまえに、友達がいない事を嘆いたらどうかしら?」
「辛辣すぎる……」
「それで、どうするの?」
とアルマは言った。
「わたしも、怪我はしてないけど魔力が少ないからあんまり戦えないわよ。逃げるなら抱えて走るくらいはできるけど……」
「いや」とスペスは悪魔の方を見る。
「たぶんあいつが頭で、言葉が通じる。口でなんとかできないか、やってみるよ」
「スペスが言うならそれでもいいけど……もし、ダメだったら逃げるからね。その手も早く治さないといけないんだから」
「わかった」
そう言って、スペスは小柄な悪魔の前に出ていった。
しばらくして――落ちついたアルマは、鼻をすすってからパッと離れた。
「痛っ!」
と思わずスペスが声を出す。
「あっ――ごめんねっ、すぐに診るからっ! 座れる?」
アルマに肩を支えられ、よろよろとスペスが座りこむ。
「わたしも魔力が少ないから、すぐに全部は治せないけど――」
「いいさ」とスペスは顔をしかめて言った。
「……でも《痛み止め》だけはかけてくれるかな?」
アルマはうなずいてすぐに《痛み止め》をかけると、スペスの身体を看ていくが――
「な……なによこれっ!」
黒く焼け焦げた左手を見て、声をあげた。
「いったい何をしたの! 表面どころか、中まで煮えちゃってるじゃない! 早く処置をしないと、手が無くなっちゃうわよ!」
「ちょっと――火遊びを……ね」とスペスは笑う。
「はぁ……まったく。無茶してもいいとは言ったけど、ほんとに無茶するんだから……」
「ゴメン……」
「いいわよ」と仕方なくアルマは笑みを浮かべた。
「それでも生きててくれた……から」
「ボクもそう思う」
スペスがうなずくと、ふたりは笑って見つめ合う。
そこへ割って入るように、甲高い声が聞こえてきた。
「どーなってるっ! なんで〝チャンぴオン〟が倒れてるのだわ!」
ふたりからだいぶ離れた場所。森との境目に、黒い長衣をまとった小柄な人影が見えた。
「あー、忘れてたなぁ……」
トロルの影から様子をうかがったスペスは、そう言ってよろよろと立ちあがった。
「ちょっと⁉︎ まだ動いちゃダメだって……!」
止めようとするアルマも、トロルの身体に隠れて声の方をのぞき見る。
「……誰よあれ? スペスのお友達? それなら、スペスに初めてお友達ができたことを、お祝いしないといけないのだけど……」
「あれ? それって、ボクとアルマはまだ、友達にもなってない、ってこと?」
「もちろん完全に他人よ」
「そんなぁ~」
「わたしと友達になりたいなら、忠誠と絶対服従を誓ったうえで、貢ぎ物をしないとなれないのよ?」
「そんな上下関係がキツい友達がいるかよ! ボクは、そういうのじゃなくて普通の友達のほうがいいなぁ……」
「わかったわ」とアルマはうなずく。
「じゃあ、わたしはスペスの想像上の友達ってことでいいわよ」
「それ、現実にはいないヤツだよね⁉︎」
「そうだけど? いいじゃない、わたしとあなたは、頭の中では友達よ?」
「それじゃ、いないのと変わらないでしょ」
「あら、頭の中にだけいるのと、頭の中にもいないの、だったら……」
アルマはすこし考える。
「まあ、わたしにはどっちでもいいわね」
「ボクには、どっちもよくないんだけど! それでもせめて考える振りくらいはしてほしいな!」
「検討するわ」とアルマは流した。
「それで、あの人はあなたのお友達じゃないの?」
「ちがうよ。まあ〝敵〟かな」
「そう、よかった」
「なんで?」
「スペスに、友達はいなかったのね」
「頑なにボクと友達じゃないアピールをしてくる所と、ボクに友達がいないのを喜んでる所の、どっちから先に突っこんだらいいのかな⁉︎」
「そのまえに、友達がいない事を嘆いたらどうかしら?」
「辛辣すぎる……」
「それで、どうするの?」
とアルマは言った。
「わたしも、怪我はしてないけど魔力が少ないからあんまり戦えないわよ。逃げるなら抱えて走るくらいはできるけど……」
「いや」とスペスは悪魔の方を見る。
「たぶんあいつが頭で、言葉が通じる。口でなんとかできないか、やってみるよ」
「スペスが言うならそれでもいいけど……もし、ダメだったら逃げるからね。その手も早く治さないといけないんだから」
「わかった」
そう言って、スペスは小柄な悪魔の前に出ていった。