残酷な描写あり
R-15
第99話 『遊んでやるよ⁉』
真っ赤な生地に刺繍の入った異国の服を着るメイランは、いつもは無造作にしばるだけだった髪をきっちりと一本に編み込み、腰の後ろに身厚の曲刀を佩いていた。
「なンなのだワ、お前はっ! 邪魔をすルものじゃナいのだワ!」
アブタノが言ったが、メイランは、聞こえなかったかのように涼しい顔で、オーガのすぐ脇を通り、ふたりの方にやって来る。
簡単に間合いに入られたオーガがビクッと驚いて、通り過ぎたメイランに腕をのばしたが――
メイランは歩きながら、軽くお辞儀でもするように体をかたむけて、後ろも見ずにオーガの腕をかわす。
つかみ損ねたオーガは、なにが起きたのか分からなかったように、空振りした手を不思議そうに見た。
「悪い――遅くなっちまったみたいだな」
やって来たメイランが、座りこんでいるふたりに言った。
「いや、むしろ、だいぶ早いんじゃない?」
アルマに寄りかかっていたスペスが、上を見て言った。
夜空に出た赤い月は、まだ山を離れたばかりだった。
「そうかい?」とメイランが笑う。
「まぁ、細かい話はあとにしようぜ、もじゃもじゃ頭」
「……スペスだってば」
「そうだったな」とメイランはしゃがみこむ。
「スペス、ずいぶん頑張ったみたいじゃないか」
「いやぁ……そうでもないよ」
全身ボロボロの姿で、スペスはそう嘯く。
メイランは、そんなスペスを見て笑うと、アルマに一本のガラス瓶を差し出した。
「あ、あのぉ……これは?」
たずねたアルマに、メイランは、『いいから、すぐ飲め』と言う。
受け取った瓶は、口のところに封がしてあった。
封をはずしたアルマは、ひとくち含んでみたが、味はあまりしない。
「そいつを飲めば、すぐに魔力が回復する」
「ぶッ……!」
とアルマは、口の中身を吹き出して、瓶に戻してしまった。
「なにしてんだ、汚ったねぇなぁ」
とメイランが嫌そうに見る。
「えっ……そ、それって……、すっごく高価なやつじゃあ……?」
「――いいんだよ。どのみち開けちまったら長くは持たねぇ。くだらないこと気にしてねぇで、とっとと飲め!」
「は、はいっ!」
アルマは瓶に口をつけて、一気に飲み干した。
「よし――魔力が戻ったらスペスを治せ。まずは……左手が急ぎだな」
「で、でも……」とアルマはまわりを見る。
四体のオーガたちが、包囲の輪をちぢめていた。
「なぁに、心配するな」
メイランはオーガを見回して、楽しそうにニヤリと笑う。
「あいつらはアタシがやる。お前は治療だけしていればいい。早くしないと、スペスの手がなくなるぞ」
「わ、わかりましたっ!」
アルマはすぐにスペスの左手をとった。すでに魔力は戻り始めていた。
メイランが立ち上がり、オーガ達に言った。
「どうやらうちのがずいぶん世話になったみたいだな。お礼に、このアタシが遊んでやるよ! 来な!」
その声を合図に、いちばん近くにいたオーガがメイランに拳を振りおろす。
治療していたアルマは、当たる! と思ったが、
突然、殴りつけたはずのオーガの頭が勢いよく下がり、
つぎの瞬間――
その足が天にむかって逆立ちするように伸びた。
メイランがオーガを〝投げた〟のだとアルマに分かったのは、逆さまになったオーガの背中が音をたてて地面に落ちたあとだった。
仰向けになったオーガの頭に足を乗せ、メイランが腰の曲刀を抜く。
「アタシの国の〝死合い〟じゃあな、投げられて背がついたヤツは、死んだ事になるんだぜ」
オーガが動くよりも早くメイランの曲刀が閃き、切り裂かれた喉から勢いよく青い血が吹き出す。
「ひとつ!」と、メイランは曲刀を納めた。
すでに、ほかのオーガたちもメイランへと動き出していたが、いちばん遠かった一体だけはスペスとアルマのほうへ向かっていた。
いけない、とアルマが立ちあがろうとした瞬間――
「お前は座っていろ!」
という声がして、メイランが横を駆け抜けていった。
標的を変えて来たメイランに、オーガは棍棒を振りぬいたが、それは虚しく空をきる。
突然消えたメイランを探して、オーガが左右に視線をさまよわせた。
その足元から声がする――
「こっちだ!」
死角である真下から、伸び上がるように撃ち上げられた掌打が、オーガのアゴへめりこんだ。
バキバキという音とともに下顎が砕け、打撃とともに上顎につき刺さる。
丸いオーガの背中が真っすぐに伸び、そのまま崩れるように後ろへ倒れていった。
「ふたつ!」
「なンなのだワ、お前はっ! 邪魔をすルものじゃナいのだワ!」
アブタノが言ったが、メイランは、聞こえなかったかのように涼しい顔で、オーガのすぐ脇を通り、ふたりの方にやって来る。
簡単に間合いに入られたオーガがビクッと驚いて、通り過ぎたメイランに腕をのばしたが――
メイランは歩きながら、軽くお辞儀でもするように体をかたむけて、後ろも見ずにオーガの腕をかわす。
つかみ損ねたオーガは、なにが起きたのか分からなかったように、空振りした手を不思議そうに見た。
「悪い――遅くなっちまったみたいだな」
やって来たメイランが、座りこんでいるふたりに言った。
「いや、むしろ、だいぶ早いんじゃない?」
アルマに寄りかかっていたスペスが、上を見て言った。
夜空に出た赤い月は、まだ山を離れたばかりだった。
「そうかい?」とメイランが笑う。
「まぁ、細かい話はあとにしようぜ、もじゃもじゃ頭」
「……スペスだってば」
「そうだったな」とメイランはしゃがみこむ。
「スペス、ずいぶん頑張ったみたいじゃないか」
「いやぁ……そうでもないよ」
全身ボロボロの姿で、スペスはそう嘯く。
メイランは、そんなスペスを見て笑うと、アルマに一本のガラス瓶を差し出した。
「あ、あのぉ……これは?」
たずねたアルマに、メイランは、『いいから、すぐ飲め』と言う。
受け取った瓶は、口のところに封がしてあった。
封をはずしたアルマは、ひとくち含んでみたが、味はあまりしない。
「そいつを飲めば、すぐに魔力が回復する」
「ぶッ……!」
とアルマは、口の中身を吹き出して、瓶に戻してしまった。
「なにしてんだ、汚ったねぇなぁ」
とメイランが嫌そうに見る。
「えっ……そ、それって……、すっごく高価なやつじゃあ……?」
「――いいんだよ。どのみち開けちまったら長くは持たねぇ。くだらないこと気にしてねぇで、とっとと飲め!」
「は、はいっ!」
アルマは瓶に口をつけて、一気に飲み干した。
「よし――魔力が戻ったらスペスを治せ。まずは……左手が急ぎだな」
「で、でも……」とアルマはまわりを見る。
四体のオーガたちが、包囲の輪をちぢめていた。
「なぁに、心配するな」
メイランはオーガを見回して、楽しそうにニヤリと笑う。
「あいつらはアタシがやる。お前は治療だけしていればいい。早くしないと、スペスの手がなくなるぞ」
「わ、わかりましたっ!」
アルマはすぐにスペスの左手をとった。すでに魔力は戻り始めていた。
メイランが立ち上がり、オーガ達に言った。
「どうやらうちのがずいぶん世話になったみたいだな。お礼に、このアタシが遊んでやるよ! 来な!」
その声を合図に、いちばん近くにいたオーガがメイランに拳を振りおろす。
治療していたアルマは、当たる! と思ったが、
突然、殴りつけたはずのオーガの頭が勢いよく下がり、
つぎの瞬間――
その足が天にむかって逆立ちするように伸びた。
メイランがオーガを〝投げた〟のだとアルマに分かったのは、逆さまになったオーガの背中が音をたてて地面に落ちたあとだった。
仰向けになったオーガの頭に足を乗せ、メイランが腰の曲刀を抜く。
「アタシの国の〝死合い〟じゃあな、投げられて背がついたヤツは、死んだ事になるんだぜ」
オーガが動くよりも早くメイランの曲刀が閃き、切り裂かれた喉から勢いよく青い血が吹き出す。
「ひとつ!」と、メイランは曲刀を納めた。
すでに、ほかのオーガたちもメイランへと動き出していたが、いちばん遠かった一体だけはスペスとアルマのほうへ向かっていた。
いけない、とアルマが立ちあがろうとした瞬間――
「お前は座っていろ!」
という声がして、メイランが横を駆け抜けていった。
標的を変えて来たメイランに、オーガは棍棒を振りぬいたが、それは虚しく空をきる。
突然消えたメイランを探して、オーガが左右に視線をさまよわせた。
その足元から声がする――
「こっちだ!」
死角である真下から、伸び上がるように撃ち上げられた掌打が、オーガのアゴへめりこんだ。
バキバキという音とともに下顎が砕け、打撃とともに上顎につき刺さる。
丸いオーガの背中が真っすぐに伸び、そのまま崩れるように後ろへ倒れていった。
「ふたつ!」