残酷な描写あり
R-15
第100話 『何が悪かは、アタシが決める⁉』
あっという間に二体を片付けたメイランに、残ったオーガは警戒を強めた。
二体で慎重に距離をつめ、挟み撃ちをするように回りこむ。
たとえ実力差があっても、両側から同時に攻撃されるのは明らかな不利だ。
スペスの治療をしながらアルマは、メイランがどう対応するつもりかとハラハラしながら見ていたが、
当のメイランは腰に手を当てたまま、オーガが寄ってくるのをただつまらなそうに待っていた。
前後からにじり寄ったオーガ達が、間合いに入ると同時に爪をたてて襲いかかる。
四本の腕が両側から暴風のように振り回される中で、メイランは跳び、かわし、ときに受け、ときに逸らし、危なげなく全てを捌いていく。
その足は、立っていた位置から、ほとんど動いてもいなかった。
「あーあ、あれじゃあ――」
と治療を受けていたスペスが言った。
「攻撃をやめたとたんに、オーガの方がやられちゃいそうだね」
スペスの言葉どおり、攻撃を仕掛けているはずのオーガのほうが懸命で、連続していた攻撃も、だんだんとペースが落ちてくる。
それでもどうにか続けていた攻撃が、わずかに途切れた時――
かわし続けていたメイランが、一体のふところへ体当たりをするように飛びこんだ。
密着されたオーガが動きを止め、口から青い血を吐いてグラリと倒れる。
見ていたスペスたちにも、メイランが何をしたのか分からなかった。
「みっつ!」
メイランが叫んでいる間に、もう一体のオーガは敵わないと判断したのか、即座に逃げ出していた。
アブタノがなにか叫んでいたが、オーガは止まらなかった。
「テメェ! うちのやつをあんなにしてくれて、逃げられるとでも思っているのかっ!」
叫んだメイランが、腰から抜いた曲刀を、振り回して投げた。
柄に結ばれた赤い紐がピンと伸び、空中で弧を描くように舞った曲刀が、逃げだしたオーガの膝を後ろから刈りとる。
走っていたオーガがつんのめるようにして前に倒れると、紐を引いて刀を戻したメイランが、あっという間に追いついてその首を落とした。
「よっつ! ……っと、あとはお前だけか?」
メイランがアブタノを見た。
「どーナってルのだワ!」アブタノが叫ぶ。
「アールヴにこンな戦士がいルとは聞いテいないのだワ! いっタい何者なのダ、お前!」
「悪魔に、名乗る名など持っていないね」
メイランが曲刀の血をはらう。
「悪魔? 悪魔ダと?」
アブタノがメイランに向かって手を伸ばす。
「なにを言ってル! 〝悪〟は貴様らノほうダわ! 自分達が何をシているノかも知らず、のウのうト生きテ何が悪だっ!」
手の先から人の頭くらいの火球が生まれ、弾かれるように飛ぶ。
それをひょいとよけて、メイランが叫んだ。
「うるせぇ! アタシにとって何が悪かは、アタシが決める!
お前が、どれだけ正しいことをしてようと、うちのヤツをやってくれたお前は、アタシにとって悪だっ!」
刀を突き出すメイランの姿に、治療をしていたアルマの目が開く。
「かっこいい!」
「そうだねぇ」スペスもうなずいた。
「なかなか、あそこまで言い切れるものじゃないよ」
「やカましイ! やカましイのだワ!」
アブタノはつづけざまに火球を三つ放ったが、メイランは軽々と全てかわす。
「避けるナ!」
声を荒げてアブタノが両手をつき出すと、さらに大きな火球が現れた。
だが、メイランは馬鹿にしたように言う。
「いくら、でかくしたってムダだぜ。この距離でその速度じゃあ、何度やっても当たらねぇよ」
「ちくシょう! そレなら、あいツらからだ!」
アブタノは急に、スペスとアルマのほうへ向きなおった。
「ちっ!」と舌打ちをして、メイランが走る。
スペスとアルマに向けて放たれた大火球はメイランを避けるように山なりに飛んだ。
追いかけるメイランは、さらに二歩を駆けると、宙返りしながら跳ぶ。
「《舞空連脚》!」
メイランの身体が空中で二回転し、伸びた脚が火球を蹴り飛ばす。
軌道を大きく変えた火球は、森のほうへ飛んで燃えあがった。
「あの、スペスさん……いま火の玉を蹴ったように見えたんですが……」
「ワシもじゃよ、バアさん」
「誰がバアさんよ……」
燃えあがる森を見ながら、アルマは呆然と突っ込んだ。
「しっかし、めんどくせーなあ」
メイランは、がりがりと頭をかく。
「けっけっけ! この勝負あっタのだワ」
勝ち誇るようにアブタノが言った。
「お前はどうやら近接戦が得意のよウだが、遠間から攻撃できるアチシとは相性がわルかったのダわ!」
「そうかい?」
と、メイランが頭をかく手を止める。
「それが、そうでもないんだよ――なっ!」
そのままメイランが手を振り下ろすと、
「ギャッ!」
と声をあげてアブタノが顔のあたりを押さえた。
アブタノのかぶっているフードの横が、ざっくりと切れていた。
「な、なにをしたのよ……いま」
アルマが驚いて訊ねる。
「たぶん、隠し武器だよ」
スペスが答えた。
「よく見えなかったけど、黒く塗ったナイフみたいなものじゃないかな?」
「そんなもの、どこに持ってたの?」
「たぶん、髪の毛のなか」
「なにそれ、こわい……」
「まだやるかい?」
メイランがまた髪に手を当てた。
二体で慎重に距離をつめ、挟み撃ちをするように回りこむ。
たとえ実力差があっても、両側から同時に攻撃されるのは明らかな不利だ。
スペスの治療をしながらアルマは、メイランがどう対応するつもりかとハラハラしながら見ていたが、
当のメイランは腰に手を当てたまま、オーガが寄ってくるのをただつまらなそうに待っていた。
前後からにじり寄ったオーガ達が、間合いに入ると同時に爪をたてて襲いかかる。
四本の腕が両側から暴風のように振り回される中で、メイランは跳び、かわし、ときに受け、ときに逸らし、危なげなく全てを捌いていく。
その足は、立っていた位置から、ほとんど動いてもいなかった。
「あーあ、あれじゃあ――」
と治療を受けていたスペスが言った。
「攻撃をやめたとたんに、オーガの方がやられちゃいそうだね」
スペスの言葉どおり、攻撃を仕掛けているはずのオーガのほうが懸命で、連続していた攻撃も、だんだんとペースが落ちてくる。
それでもどうにか続けていた攻撃が、わずかに途切れた時――
かわし続けていたメイランが、一体のふところへ体当たりをするように飛びこんだ。
密着されたオーガが動きを止め、口から青い血を吐いてグラリと倒れる。
見ていたスペスたちにも、メイランが何をしたのか分からなかった。
「みっつ!」
メイランが叫んでいる間に、もう一体のオーガは敵わないと判断したのか、即座に逃げ出していた。
アブタノがなにか叫んでいたが、オーガは止まらなかった。
「テメェ! うちのやつをあんなにしてくれて、逃げられるとでも思っているのかっ!」
叫んだメイランが、腰から抜いた曲刀を、振り回して投げた。
柄に結ばれた赤い紐がピンと伸び、空中で弧を描くように舞った曲刀が、逃げだしたオーガの膝を後ろから刈りとる。
走っていたオーガがつんのめるようにして前に倒れると、紐を引いて刀を戻したメイランが、あっという間に追いついてその首を落とした。
「よっつ! ……っと、あとはお前だけか?」
メイランがアブタノを見た。
「どーナってルのだワ!」アブタノが叫ぶ。
「アールヴにこンな戦士がいルとは聞いテいないのだワ! いっタい何者なのダ、お前!」
「悪魔に、名乗る名など持っていないね」
メイランが曲刀の血をはらう。
「悪魔? 悪魔ダと?」
アブタノがメイランに向かって手を伸ばす。
「なにを言ってル! 〝悪〟は貴様らノほうダわ! 自分達が何をシているノかも知らず、のウのうト生きテ何が悪だっ!」
手の先から人の頭くらいの火球が生まれ、弾かれるように飛ぶ。
それをひょいとよけて、メイランが叫んだ。
「うるせぇ! アタシにとって何が悪かは、アタシが決める!
お前が、どれだけ正しいことをしてようと、うちのヤツをやってくれたお前は、アタシにとって悪だっ!」
刀を突き出すメイランの姿に、治療をしていたアルマの目が開く。
「かっこいい!」
「そうだねぇ」スペスもうなずいた。
「なかなか、あそこまで言い切れるものじゃないよ」
「やカましイ! やカましイのだワ!」
アブタノはつづけざまに火球を三つ放ったが、メイランは軽々と全てかわす。
「避けるナ!」
声を荒げてアブタノが両手をつき出すと、さらに大きな火球が現れた。
だが、メイランは馬鹿にしたように言う。
「いくら、でかくしたってムダだぜ。この距離でその速度じゃあ、何度やっても当たらねぇよ」
「ちくシょう! そレなら、あいツらからだ!」
アブタノは急に、スペスとアルマのほうへ向きなおった。
「ちっ!」と舌打ちをして、メイランが走る。
スペスとアルマに向けて放たれた大火球はメイランを避けるように山なりに飛んだ。
追いかけるメイランは、さらに二歩を駆けると、宙返りしながら跳ぶ。
「《舞空連脚》!」
メイランの身体が空中で二回転し、伸びた脚が火球を蹴り飛ばす。
軌道を大きく変えた火球は、森のほうへ飛んで燃えあがった。
「あの、スペスさん……いま火の玉を蹴ったように見えたんですが……」
「ワシもじゃよ、バアさん」
「誰がバアさんよ……」
燃えあがる森を見ながら、アルマは呆然と突っ込んだ。
「しっかし、めんどくせーなあ」
メイランは、がりがりと頭をかく。
「けっけっけ! この勝負あっタのだワ」
勝ち誇るようにアブタノが言った。
「お前はどうやら近接戦が得意のよウだが、遠間から攻撃できるアチシとは相性がわルかったのダわ!」
「そうかい?」
と、メイランが頭をかく手を止める。
「それが、そうでもないんだよ――なっ!」
そのままメイランが手を振り下ろすと、
「ギャッ!」
と声をあげてアブタノが顔のあたりを押さえた。
アブタノのかぶっているフードの横が、ざっくりと切れていた。
「な、なにをしたのよ……いま」
アルマが驚いて訊ねる。
「たぶん、隠し武器だよ」
スペスが答えた。
「よく見えなかったけど、黒く塗ったナイフみたいなものじゃないかな?」
「そんなもの、どこに持ってたの?」
「たぶん、髪の毛のなか」
「なにそれ、こわい……」
「まだやるかい?」
メイランがまた髪に手を当てた。