残酷な描写あり
R-15
第102話 『花束と沈黙⁉』
それから三日が過ぎた――
「あら、もう行かれるのですか?」
「うん――」と、スペスが長老に答える。
「タッシェに見つかると、ついていくって駄々をこねそうだから、朝のうちに行ってくるよ」
「あと、途中でイオキアさんのところにも、寄っていこうと思うんです」
アルマも言う。
「そうですか、お気をつけていってらっしゃい」
長老は微笑んで、ふたりを見送った。
修理中の長老の住居を出たふたりは、まだ多くのものが壊れたままの集落を歩いていく。
スペスはいつものカバン、アルマも来たときから持っているカゴを背負っていた。
「よう、行ってくるのか?」
途中でメイランと出会う。
「うん、手もだいぶ良くなってきたし、早く帰る方法を見つけないとだからね」
そう言って見せたスペスの左手は包帯が巻かれ、肩から吊られていた。
「そうか……。まぁ、アタシは、もうしばらくはココにいる。街にも連絡を出したし、もし帰れるようなら、さっさと帰っちまいな」
メイランはそう言って、行けとばかりにヒラヒラと手をふった。
「うん、わかった」
「行ってきます」
と、ふたりはまた歩きだし、集落を出て丘をのぼる。
空は今日もすっきりと良く晴れていた。
スペスとアルマは、歩きながら道の途中に咲いている花を摘んでゆき、ひとつに束ねていく。
頂上の手前まで登ったふたりは、そこで、横に道をそれた。
とても日当たりが良く、下にアールヴの集落がよく見える場所だった。
あたりの草は刈られ、むき出しの土でいくつもの〝山〟が作られていた。
「スペス……」
アルマが、スペスの服をひっぱる。
その視線の先――
ひとつの土山のまえに、女隊長が力なく座りこんでいた。
その肩が、遠目にも震えているのがわかった。
すすり泣く声が、ふたりのところまで聞こえてくる。
「ボクらは、あとにしようか」
スペスがそっと言った。
ふたりは花束を持ったまま道へもどり、また丘をのぼっていく。
頂上の神殿は、あい変わらずの姿でそこにあり、丘を上ってきた風が、ふたりを出迎えるように身体をなでていった。
すぐにスペスが神殿を調べはじめ、アルマは花束をおいて、あたりの見回りをする。
「いいお天気ね」
ひととおり周囲を見てきたアルマが、近くの石に腰かけた。
「そうだね」とスペスが答えた。
「いい風……」
アルマは目を閉じ、短くなった髪が風にゆさぶられるのを感じた。
「そうだね」とまたスペスが答える。
「静かね……。ここはなにも変わってないみたい。なにも起きなかったんじゃないかって、そう思いたくなるくらいに――」
「そうだね」
「なによ、さっきから『そうだね』ばっかりじゃない。わたしの話ちゃんと聞いてるの?」
「きいてるよ」とスペスは答える。
アルマは、しばらく黙ってから、また口を開いた。
「もう、アールヴのひと達は大丈夫よね? きっと三百年後にもいるのよね?」
「たぶんね」とスペスは答える。
「……しばらくは、メイランさんもいてくれるみたいだし、少なくとも当分は平気さ」
「もし無事に帰れたら、みんな、また会えるのかな? だってあのひと達、すごく長生きなんでしょ。タッシェも大きくなってるのかな?」
「きっとそうだよ。楽しみにしておこう」
「うんっ!」
とアルマは、満足そうにうなずいた。
「それでどうなの……? なにか、手がかりはあった?」
「いいや、なにも」とスペスは首を振る。
「あのときと同じ〝ナニカ〟が原因だとは思うんだけど、それが何なのかがよく分からなくて――」
「うーん、あの時と同じねぇ……」アルマは考える。
「ねぇ……あのときに、なにがあったか思い出してみない?」
「そうだねぇ」とスペスも腕を組む。
「えっと、たしか……スペスが実験をするって言って、芋をおいて石が光ったんだけど、なにも起きなかったのよね」
「そうそう、それでアルマが芋を取りにいって、あとからボクも行った」
「それでわたしが、スペスに芋を渡そうとしたのよね」
「なんか芋のことばっかりだね」スペスが笑う。
「わかった! 芋よ! やっぱり、芋がなにかしてるんだわ」
「それはないと思うよ――それに、あの芋は食べちゃったんだってば」
「じゃあ、帰れないじゃない!」
「まぁ……芋は一回置いておこうよ。他には何かあった?」
「他に?」とアルマは考え込む。
「わたしが芋を渡そうとして転びそうになって、スペスに抱きしめられて、そのあとキ……」
言いかけて、アルマはその言葉を飲みこんだ。
「そうか……」
隣のスペスは、あごに手を当てて、なにかを考えている。
そうやって考えて込んだ時のスペスは、どこか色気がある表情をしている気がして、なんとなくアルマは、そんなスペスの口元を盗み見た。
「ねえアルマ?」
ふいにスペスが顔をあげる。
「な、なに?」
アルマは、あわてて目をそらした。
「キス――してみようか」
「あら、もう行かれるのですか?」
「うん――」と、スペスが長老に答える。
「タッシェに見つかると、ついていくって駄々をこねそうだから、朝のうちに行ってくるよ」
「あと、途中でイオキアさんのところにも、寄っていこうと思うんです」
アルマも言う。
「そうですか、お気をつけていってらっしゃい」
長老は微笑んで、ふたりを見送った。
修理中の長老の住居を出たふたりは、まだ多くのものが壊れたままの集落を歩いていく。
スペスはいつものカバン、アルマも来たときから持っているカゴを背負っていた。
「よう、行ってくるのか?」
途中でメイランと出会う。
「うん、手もだいぶ良くなってきたし、早く帰る方法を見つけないとだからね」
そう言って見せたスペスの左手は包帯が巻かれ、肩から吊られていた。
「そうか……。まぁ、アタシは、もうしばらくはココにいる。街にも連絡を出したし、もし帰れるようなら、さっさと帰っちまいな」
メイランはそう言って、行けとばかりにヒラヒラと手をふった。
「うん、わかった」
「行ってきます」
と、ふたりはまた歩きだし、集落を出て丘をのぼる。
空は今日もすっきりと良く晴れていた。
スペスとアルマは、歩きながら道の途中に咲いている花を摘んでゆき、ひとつに束ねていく。
頂上の手前まで登ったふたりは、そこで、横に道をそれた。
とても日当たりが良く、下にアールヴの集落がよく見える場所だった。
あたりの草は刈られ、むき出しの土でいくつもの〝山〟が作られていた。
「スペス……」
アルマが、スペスの服をひっぱる。
その視線の先――
ひとつの土山のまえに、女隊長が力なく座りこんでいた。
その肩が、遠目にも震えているのがわかった。
すすり泣く声が、ふたりのところまで聞こえてくる。
「ボクらは、あとにしようか」
スペスがそっと言った。
ふたりは花束を持ったまま道へもどり、また丘をのぼっていく。
頂上の神殿は、あい変わらずの姿でそこにあり、丘を上ってきた風が、ふたりを出迎えるように身体をなでていった。
すぐにスペスが神殿を調べはじめ、アルマは花束をおいて、あたりの見回りをする。
「いいお天気ね」
ひととおり周囲を見てきたアルマが、近くの石に腰かけた。
「そうだね」とスペスが答えた。
「いい風……」
アルマは目を閉じ、短くなった髪が風にゆさぶられるのを感じた。
「そうだね」とまたスペスが答える。
「静かね……。ここはなにも変わってないみたい。なにも起きなかったんじゃないかって、そう思いたくなるくらいに――」
「そうだね」
「なによ、さっきから『そうだね』ばっかりじゃない。わたしの話ちゃんと聞いてるの?」
「きいてるよ」とスペスは答える。
アルマは、しばらく黙ってから、また口を開いた。
「もう、アールヴのひと達は大丈夫よね? きっと三百年後にもいるのよね?」
「たぶんね」とスペスは答える。
「……しばらくは、メイランさんもいてくれるみたいだし、少なくとも当分は平気さ」
「もし無事に帰れたら、みんな、また会えるのかな? だってあのひと達、すごく長生きなんでしょ。タッシェも大きくなってるのかな?」
「きっとそうだよ。楽しみにしておこう」
「うんっ!」
とアルマは、満足そうにうなずいた。
「それでどうなの……? なにか、手がかりはあった?」
「いいや、なにも」とスペスは首を振る。
「あのときと同じ〝ナニカ〟が原因だとは思うんだけど、それが何なのかがよく分からなくて――」
「うーん、あの時と同じねぇ……」アルマは考える。
「ねぇ……あのときに、なにがあったか思い出してみない?」
「そうだねぇ」とスペスも腕を組む。
「えっと、たしか……スペスが実験をするって言って、芋をおいて石が光ったんだけど、なにも起きなかったのよね」
「そうそう、それでアルマが芋を取りにいって、あとからボクも行った」
「それでわたしが、スペスに芋を渡そうとしたのよね」
「なんか芋のことばっかりだね」スペスが笑う。
「わかった! 芋よ! やっぱり、芋がなにかしてるんだわ」
「それはないと思うよ――それに、あの芋は食べちゃったんだってば」
「じゃあ、帰れないじゃない!」
「まぁ……芋は一回置いておこうよ。他には何かあった?」
「他に?」とアルマは考え込む。
「わたしが芋を渡そうとして転びそうになって、スペスに抱きしめられて、そのあとキ……」
言いかけて、アルマはその言葉を飲みこんだ。
「そうか……」
隣のスペスは、あごに手を当てて、なにかを考えている。
そうやって考えて込んだ時のスペスは、どこか色気がある表情をしている気がして、なんとなくアルマは、そんなスペスの口元を盗み見た。
「ねえアルマ?」
ふいにスペスが顔をあげる。
「な、なに?」
アルマは、あわてて目をそらした。
「キス――してみようか」