残酷な描写あり
R-15
第107話 『いっしょに住んだらいいじゃない⁉』
「と、年若い男女が、ひとつ屋根の下で一緒に寝起きだなんて、ふしだらです! なにかあったらどうするんですか!」
「あら、〝なにか〟とは具体的にどのようなことがあるのですか?」
わざとらしく長老が訊く。
「そ、それは、そのアレがって……もうっ! わかってて言ってますよね!」
「私は、スペスさんでしたら構いませんが?」
長老が涼しい顔で言うと、タッシェが『ぼくも!』と手を上げた。
「いやっ、ダメですって! このスケベと、こんな狭い小屋に一緒に泊まったら、それだけで子供ができちゃいますよ! そこまでしてアールヴの出生数をあげたいんですか! もっと自分を大切にしてください!」
「ひどいなぁ……」とスペスが肩をすくめた。
「それにその理屈だと、アルマにもボクの子供ができてることになるけど?」
「まぁ、そうだったんですか! おめでとうございます!」
と長老が笑顔で言った。
「できてません!」
アルマは顔を真っ赤にして否定した。
「だから、こいつとはそういうのじゃないんですっ! ただちょっとお二人の身が心配なだけで……、
あっ! それならスペスは、わたしのうちに泊まればいいんじゃない?
あんな大きくなってたんだもの、きっと部屋くらい余ってるわよ!
無くても、わたしの部屋で寝ればいいんだし! ねっ、そうよ、それがいいわ!」
「ア、アルマ? ちょ、ちょっと落ちつこうよ。言ってることがおかしくなってるよ?」
「アルマさん。独り占めは良くありませんわ」と長老が口を挟む。
「べつにおふたりは恋人というわけではないのでしょう? でしたら、スペスさんが誰となにをしようが、構わないのではありませんか? 誰とナニをしようが…………ふふふ」
涼しげな笑みだったが、目が座っていた。
「ち、長老さんもちょっと落ちつこうか……」
「ぼくも〜っ! ぼくも、お兄ちゃんと寝たい〜っ!」
「タ、タッシェまで……」
「だから、わたしの家でいいんですってば!」
口々に話しはじめる三人に困惑したスペスが、天井を見上げる。
「わかった! ボクが出ていくよっ!」
スペスが大声を出した。
驚く三人に、スペスは言う。
「ケンカになるんだったら、ボクは外で野宿するよ。だからこの話はこれでお終い。みんな仲良くしてよ」
「べ……別にケンカしてたわけじゃないのよ?」とアルマは弁明したが、
スペスにジロッと見られると『うっ……ごめんなさい』と下を向いた。
「私も、年甲斐もなく……。失礼いたしました」長老が頭をさげる。
「ゴメンなさいだよ……」とタッシェもおとなしくなった。
「仲直りしてくれるなら、べつにいいよ」とスペスは笑う。
「……じゃあ、ボクはどこか寝られそうなところを探してくるから」
「ス、スペス……そんなのダメよ。まだ手の怪我も治ってないんだから、ちゃんとしたところで休まないと……」
「でも、ほかに泊まれるところもなさそうだしなぁ……」
スペスが言うと、アルマは『うっ』と黙ってしまった。
「いえ、泊まるところでしたらございますよ」
と長老が言った。
「あるの? あるのならボクも助かるけど……」
「ここの隣にある建物は、ご覧になりましたか?」
「うん、アレのせいで、この小屋がさらにちいさく見えたよ」
「はい。あちらは、うちで経営している宿なのです」
「はいっ?」
とアルマが声を上げた。
「一階が、営業設備以外は私の私邸になっておりまして、部屋も多く空いております。ぜひお使いください」
「えっ……本当なんですか?」アルマが訊いた。
「それなら、なんで小屋にいたんです?」
「実は、ここは住居としてではなく、私の仕事場として使用しております」
「そうなんですか。あ……でも、それじゃあ家が大きくなっただけで、問題はなにも変わってないんじゃ……」
「ですから――」
と長老は、アルマに噛んで含めるように言った。
「部屋は余っていますから、アルマさんもいっしょに住んだらいいじゃないですか」
「は? ななな、なに言ってるんです⁉ そんなことできませんよ!」
「あら、どうしてです?」
訊ねる長老に、アルマは慌てて主張する。
「だ、だって……と、年若い男児が」
「男児はだいたい年若くないですか?」
「ひ、ひとつ姉の下」
「弟さんなんですね」
「一緒に寝息だなんて」
「あら、かわいい」
「ふ、ふしぜんじゃないですか⁉」
「いえ、すごく自然なことのように思えますが……というか微笑ましいです。いいですね仲の良い御姉弟で」
「さ、さっきから、なんの話をしているんですか⁉」
「それは、こちらがお訊きしたいのですが……」
もじもじするアルマに、長老は、はぁ、とため息をついた。
「アルマさんがそこまでおっしゃるのでしたら、無理にとは申しません。ただ困りましたわ」
長老は急に顔を曇らせる。
「もしもスペスさんが『うぇっへっへぇ……三百年前の貸しは身体で返してもらうぜぇ』なんて迫ってきたら、嫌だとは思っても、私には逆らうことができませんもの……」
「あのー、ボクは、そういう無理やり何かをさせる趣味はないよ?」
スペスはそう言ったが、長老は無視してつづける。
「ああ……そのような事にならぬよう、常に誰かが目を光らせてくれればいいのに……」
アルマがピクッと反応した。
「でもそんな人なんて、いるわけがないのです……。ね、アルマさん? 私、ほんとうに困りましたわ……」
長老が悲しそうにアルマを見る。
「だから、そんなことしないってば」と、スペスは言った。
「そ、それは困りますねっ!」
「ええ、とても……」
「わ、わたしがいたら、スペスもそんなことしないんじゃないかなぁ……ていうか、絶対させないです!」アルマは力強く言う。
「あのー聞いてる?」
「まぁ、頼もしいですわ、アルマさん。でも……このような私事でご迷惑をおかけするわけにはまいりませんし……」
「な、なに言ってるんですか、迷惑なんてぜんぜんですよ。どんどんわたしを頼ってください!」
「もしもーし」
「そうですか? では、お願いしてもよろしいのかしら?」
「も、もちろんですよ! まかせてください!」
「はいっ、それじゃあっ、決まりってことでっ!」
長老が笑顔でぽんっと手を叩いた。
「ボク、そんなことしないって言ってるのに、みんな聞いてくれない……」
愚痴ったスペスに、タッシェが言う。
「お兄ちゃん、メッ! 野暮はダメだよ!」
「あら、〝なにか〟とは具体的にどのようなことがあるのですか?」
わざとらしく長老が訊く。
「そ、それは、そのアレがって……もうっ! わかってて言ってますよね!」
「私は、スペスさんでしたら構いませんが?」
長老が涼しい顔で言うと、タッシェが『ぼくも!』と手を上げた。
「いやっ、ダメですって! このスケベと、こんな狭い小屋に一緒に泊まったら、それだけで子供ができちゃいますよ! そこまでしてアールヴの出生数をあげたいんですか! もっと自分を大切にしてください!」
「ひどいなぁ……」とスペスが肩をすくめた。
「それにその理屈だと、アルマにもボクの子供ができてることになるけど?」
「まぁ、そうだったんですか! おめでとうございます!」
と長老が笑顔で言った。
「できてません!」
アルマは顔を真っ赤にして否定した。
「だから、こいつとはそういうのじゃないんですっ! ただちょっとお二人の身が心配なだけで……、
あっ! それならスペスは、わたしのうちに泊まればいいんじゃない?
あんな大きくなってたんだもの、きっと部屋くらい余ってるわよ!
無くても、わたしの部屋で寝ればいいんだし! ねっ、そうよ、それがいいわ!」
「ア、アルマ? ちょ、ちょっと落ちつこうよ。言ってることがおかしくなってるよ?」
「アルマさん。独り占めは良くありませんわ」と長老が口を挟む。
「べつにおふたりは恋人というわけではないのでしょう? でしたら、スペスさんが誰となにをしようが、構わないのではありませんか? 誰とナニをしようが…………ふふふ」
涼しげな笑みだったが、目が座っていた。
「ち、長老さんもちょっと落ちつこうか……」
「ぼくも〜っ! ぼくも、お兄ちゃんと寝たい〜っ!」
「タ、タッシェまで……」
「だから、わたしの家でいいんですってば!」
口々に話しはじめる三人に困惑したスペスが、天井を見上げる。
「わかった! ボクが出ていくよっ!」
スペスが大声を出した。
驚く三人に、スペスは言う。
「ケンカになるんだったら、ボクは外で野宿するよ。だからこの話はこれでお終い。みんな仲良くしてよ」
「べ……別にケンカしてたわけじゃないのよ?」とアルマは弁明したが、
スペスにジロッと見られると『うっ……ごめんなさい』と下を向いた。
「私も、年甲斐もなく……。失礼いたしました」長老が頭をさげる。
「ゴメンなさいだよ……」とタッシェもおとなしくなった。
「仲直りしてくれるなら、べつにいいよ」とスペスは笑う。
「……じゃあ、ボクはどこか寝られそうなところを探してくるから」
「ス、スペス……そんなのダメよ。まだ手の怪我も治ってないんだから、ちゃんとしたところで休まないと……」
「でも、ほかに泊まれるところもなさそうだしなぁ……」
スペスが言うと、アルマは『うっ』と黙ってしまった。
「いえ、泊まるところでしたらございますよ」
と長老が言った。
「あるの? あるのならボクも助かるけど……」
「ここの隣にある建物は、ご覧になりましたか?」
「うん、アレのせいで、この小屋がさらにちいさく見えたよ」
「はい。あちらは、うちで経営している宿なのです」
「はいっ?」
とアルマが声を上げた。
「一階が、営業設備以外は私の私邸になっておりまして、部屋も多く空いております。ぜひお使いください」
「えっ……本当なんですか?」アルマが訊いた。
「それなら、なんで小屋にいたんです?」
「実は、ここは住居としてではなく、私の仕事場として使用しております」
「そうなんですか。あ……でも、それじゃあ家が大きくなっただけで、問題はなにも変わってないんじゃ……」
「ですから――」
と長老は、アルマに噛んで含めるように言った。
「部屋は余っていますから、アルマさんもいっしょに住んだらいいじゃないですか」
「は? ななな、なに言ってるんです⁉ そんなことできませんよ!」
「あら、どうしてです?」
訊ねる長老に、アルマは慌てて主張する。
「だ、だって……と、年若い男児が」
「男児はだいたい年若くないですか?」
「ひ、ひとつ姉の下」
「弟さんなんですね」
「一緒に寝息だなんて」
「あら、かわいい」
「ふ、ふしぜんじゃないですか⁉」
「いえ、すごく自然なことのように思えますが……というか微笑ましいです。いいですね仲の良い御姉弟で」
「さ、さっきから、なんの話をしているんですか⁉」
「それは、こちらがお訊きしたいのですが……」
もじもじするアルマに、長老は、はぁ、とため息をついた。
「アルマさんがそこまでおっしゃるのでしたら、無理にとは申しません。ただ困りましたわ」
長老は急に顔を曇らせる。
「もしもスペスさんが『うぇっへっへぇ……三百年前の貸しは身体で返してもらうぜぇ』なんて迫ってきたら、嫌だとは思っても、私には逆らうことができませんもの……」
「あのー、ボクは、そういう無理やり何かをさせる趣味はないよ?」
スペスはそう言ったが、長老は無視してつづける。
「ああ……そのような事にならぬよう、常に誰かが目を光らせてくれればいいのに……」
アルマがピクッと反応した。
「でもそんな人なんて、いるわけがないのです……。ね、アルマさん? 私、ほんとうに困りましたわ……」
長老が悲しそうにアルマを見る。
「だから、そんなことしないってば」と、スペスは言った。
「そ、それは困りますねっ!」
「ええ、とても……」
「わ、わたしがいたら、スペスもそんなことしないんじゃないかなぁ……ていうか、絶対させないです!」アルマは力強く言う。
「あのー聞いてる?」
「まぁ、頼もしいですわ、アルマさん。でも……このような私事でご迷惑をおかけするわけにはまいりませんし……」
「な、なに言ってるんですか、迷惑なんてぜんぜんですよ。どんどんわたしを頼ってください!」
「もしもーし」
「そうですか? では、お願いしてもよろしいのかしら?」
「も、もちろんですよ! まかせてください!」
「はいっ、それじゃあっ、決まりってことでっ!」
長老が笑顔でぽんっと手を叩いた。
「ボク、そんなことしないって言ってるのに、みんな聞いてくれない……」
愚痴ったスペスに、タッシェが言う。
「お兄ちゃん、メッ! 野暮はダメだよ!」