ペット同伴可Barはありますか?
ひとことでBar言うていろんなタイプがあるから困る
わたしのようなお酒初心者はどこイケばいいの?
わたしのようなお酒初心者はどこイケばいいの?
「一年ほど前でしょうか……そうですね、かれこれ一年になりますか」
彼のお誘いに乗ってみんながカウンター席に近づいていく。シャツにベスト、そして赤い蝶ネクタイを首元に留めた壮年の男性は優美な仕草でグラスを拭き始めた。
「はじめ、よくある夢のような風景だと思っていました。しかしその時の感覚からすぐ夢でないと悟り、同時に以前の記憶を失っていることに気づきました」
「なに? ではアナタも異世界人なのですか?」
拭き終えたグラスを元の棚に戻す。それから脚が長くて三角形のかわいいグラスをひとつ。そして背後の棚に並べられたビンをいくつか持ってカウンターの上に置いた。
グラスにあおいさくらんぼ? みたいなものをぽとりと落とす。
「完全に失ってはおりません。今でも暖かいぬくもりと馬車より速く駆け抜ける乗り物のことを覚えております。くるま、びょういん、ああそうそう」
先ほど置いたビンのうちひとつのフタを開けて、なにやら細い容器に注ぎ込んだ。さらにもうひとつ、ふたつ、ツンとした匂いがあったから、いくつかはたぶんアルコールなんだろう。
「私がとくに好きな単語は"まて"というものでした」
言って、壮年の男性はその容器をシャカシャカ振り回す。規則的にうえ、した、うえ、した。繰り返す動作には一片のブレがなく、流麗で素早い。彼がずっとこの動きを練習してきたことがうかがえる。
「その先にはいつも楽しみが待っているのです。その内容がいかなものだったかは覚えておりませんが」
シャカシャカの容器のフタを開け、バーテンダーがグラスに液体を注ぎ込んだ。仄暗い雰囲気のなか、自ら輝きを放つかのようにオレンジとピンクが調和した彩りを放っている。
「古の時代に活躍した妖精がモチーフだそうです」
スッ。にほんの指でテーブルをすべらせグラスをはこぶ。その先には我がパーティー唯一にして盛大なる大酒飲みがいた。
「ほぉすばらしい。ひとくちで飲み干してしまうのがもったいないように感じる」
称賛の言葉を聞いて、バーテンダーは柔和な笑みを浮かべた。
「じっくりと味わっていただければ」
「そうしよう。お前たちはミルクでも飲んどけ」
「ああ? ここにゃメシはねーのかよ」
「申し訳ございません。ここは純粋にアルコールを楽しむ場所として近隣でも有名なのです。ダーツなどの嗜好もございますが、ご安心ください。貴方方のために特別メニューをご用意しましょう」
さっきのお酒を作るために出していた材料を素早く元の場所に戻し、こんどはよっつぶんのグラスを用意した。いっこだけデカい。
「オレンジ、レモン、パイナップルおこさまでもおいしくいただけます」
「おこさま……」
グウェンちゃんが神妙な顔になる。いやたぶんこの場にいるみんなのこと言ってるだけだからあまり気にしないほうがいいよ?
年齢を感じさせる面持ちのわりに、その腕はしっかりと筋肉が詰まっている。その筋が隆起しつつ新しいシャカシャカに氷をいくつか詰め込んだ。
さっきより少ない。あとさっきのより大きい。たぶん人数分作りたいからデカいのを用意したんだろうな。
「申し遅れました。私の名前はスティと申します。ああ、ぜひとも"ス"に発音の比重を置かれますように」
(す、てぃ)
なんか言いにくい。
なんて考えてるうちにシャカシャカが終わってよっつのグラスに注がれた。ほんのり夕日の日差しがはいったオレンジ色で、爽やかな香りがあたりに広がっていく。
「灰にまみれた貴人がモチーフです」
「灰にまみれたって、そんなキタネーもん提供すんなよ」
「スプリット。サービスしてもらってる立場でそんなこと言うな」
「あれ? でも灰色じゃないの?」
気になったので聞いてみた。
「私にもよくわかりませんが、まあ、そういう名前ということで」
「あ、そうですか」
知らないんだ。
「本来は脚のあるグラスに注ぐのですが、まあみなさまには量こそ重要であろうということでコップに注がせていただきました。こちらの大きなものは貴方に」
また優雅な身振りでコップをスライドさせる。存在感の大きなコップは、我がパーティーいちばんの力自慢系少女サっちゃんの前におそなえられました。
「ふん、悪くないね」
おっきなこっぷをおっきな手でガッツリ掴み、それをイッキにあおった。
「うまい。筋肉にエネルギーが迸っていくよ」
「このカクテルといい急な客人への気遣いといい、本人もさぞ嗜好の読める舌をしているだろう」
なんてワケわからない評論家ぶってるオジサンに対し、バーテンダーは気恥ずかしそうに両手をひろげて見せた。
「ああいえ、私自身はたいへん下戸なもので呑めないのですよ」
オジサンが気まずい顔をした。
彼のお誘いに乗ってみんながカウンター席に近づいていく。シャツにベスト、そして赤い蝶ネクタイを首元に留めた壮年の男性は優美な仕草でグラスを拭き始めた。
「はじめ、よくある夢のような風景だと思っていました。しかしその時の感覚からすぐ夢でないと悟り、同時に以前の記憶を失っていることに気づきました」
「なに? ではアナタも異世界人なのですか?」
拭き終えたグラスを元の棚に戻す。それから脚が長くて三角形のかわいいグラスをひとつ。そして背後の棚に並べられたビンをいくつか持ってカウンターの上に置いた。
グラスにあおいさくらんぼ? みたいなものをぽとりと落とす。
「完全に失ってはおりません。今でも暖かいぬくもりと馬車より速く駆け抜ける乗り物のことを覚えております。くるま、びょういん、ああそうそう」
先ほど置いたビンのうちひとつのフタを開けて、なにやら細い容器に注ぎ込んだ。さらにもうひとつ、ふたつ、ツンとした匂いがあったから、いくつかはたぶんアルコールなんだろう。
「私がとくに好きな単語は"まて"というものでした」
言って、壮年の男性はその容器をシャカシャカ振り回す。規則的にうえ、した、うえ、した。繰り返す動作には一片のブレがなく、流麗で素早い。彼がずっとこの動きを練習してきたことがうかがえる。
「その先にはいつも楽しみが待っているのです。その内容がいかなものだったかは覚えておりませんが」
シャカシャカの容器のフタを開け、バーテンダーがグラスに液体を注ぎ込んだ。仄暗い雰囲気のなか、自ら輝きを放つかのようにオレンジとピンクが調和した彩りを放っている。
「古の時代に活躍した妖精がモチーフだそうです」
スッ。にほんの指でテーブルをすべらせグラスをはこぶ。その先には我がパーティー唯一にして盛大なる大酒飲みがいた。
「ほぉすばらしい。ひとくちで飲み干してしまうのがもったいないように感じる」
称賛の言葉を聞いて、バーテンダーは柔和な笑みを浮かべた。
「じっくりと味わっていただければ」
「そうしよう。お前たちはミルクでも飲んどけ」
「ああ? ここにゃメシはねーのかよ」
「申し訳ございません。ここは純粋にアルコールを楽しむ場所として近隣でも有名なのです。ダーツなどの嗜好もございますが、ご安心ください。貴方方のために特別メニューをご用意しましょう」
さっきのお酒を作るために出していた材料を素早く元の場所に戻し、こんどはよっつぶんのグラスを用意した。いっこだけデカい。
「オレンジ、レモン、パイナップルおこさまでもおいしくいただけます」
「おこさま……」
グウェンちゃんが神妙な顔になる。いやたぶんこの場にいるみんなのこと言ってるだけだからあまり気にしないほうがいいよ?
年齢を感じさせる面持ちのわりに、その腕はしっかりと筋肉が詰まっている。その筋が隆起しつつ新しいシャカシャカに氷をいくつか詰め込んだ。
さっきより少ない。あとさっきのより大きい。たぶん人数分作りたいからデカいのを用意したんだろうな。
「申し遅れました。私の名前はスティと申します。ああ、ぜひとも"ス"に発音の比重を置かれますように」
(す、てぃ)
なんか言いにくい。
なんて考えてるうちにシャカシャカが終わってよっつのグラスに注がれた。ほんのり夕日の日差しがはいったオレンジ色で、爽やかな香りがあたりに広がっていく。
「灰にまみれた貴人がモチーフです」
「灰にまみれたって、そんなキタネーもん提供すんなよ」
「スプリット。サービスしてもらってる立場でそんなこと言うな」
「あれ? でも灰色じゃないの?」
気になったので聞いてみた。
「私にもよくわかりませんが、まあ、そういう名前ということで」
「あ、そうですか」
知らないんだ。
「本来は脚のあるグラスに注ぐのですが、まあみなさまには量こそ重要であろうということでコップに注がせていただきました。こちらの大きなものは貴方に」
また優雅な身振りでコップをスライドさせる。存在感の大きなコップは、我がパーティーいちばんの力自慢系少女サっちゃんの前におそなえられました。
「ふん、悪くないね」
おっきなこっぷをおっきな手でガッツリ掴み、それをイッキにあおった。
「うまい。筋肉にエネルギーが迸っていくよ」
「このカクテルといい急な客人への気遣いといい、本人もさぞ嗜好の読める舌をしているだろう」
なんてワケわからない評論家ぶってるオジサンに対し、バーテンダーは気恥ずかしそうに両手をひろげて見せた。
「ああいえ、私自身はたいへん下戸なもので呑めないのですよ」
オジサンが気まずい顔をした。