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作者: 犬物語
異世界人、増えてます
温泉回つづき
「ってことはさ、もしかしたら今まで異世界人と気づかずスルーしてきたかもしれないってことじゃん?」

 湯けむりにモヤけるみんなの顔。白濁したお湯に月の影は映らず、ただまっしろな液体を両手にすくい、そのまま顔にパシャッとかけた。

 チコちゃん情報。ちょうど一年くらい前から異世界人がつぎつぎとやってきたんだって話を女将さんから聞いたそうな。それはこの国アイン・マラハだけにとどまらず、どうやらクー・タオ大陸全体的にわたっているらしい。

 どうやらだいたい草原に放り出されてる。ただその瞬間・・・・を直に見た人はいないくて、たとえばなんの前触れもなくあらわれた! とか空からコウノトリさんに落とされた! とか電気ビリビリーってなってナゾの暗黒空間からワープしてきた! とかいろんなウワサがあるんだって。でもハッキリした条件はわからずじかん、ばしょ、どんなシチュエーションかはわりとランダムなのだそうだ。

「運良く人と出会えた者もいれば、トゥーサのように己の力で生きることを強いられた者もいる。もしかしたら誰かと出会う前にマモノなどに命を奪われた者もいるかもしれない」

「こわいこと言わないでよー」

「でも、ありえることですよね……あたしも町を見つけなければどうなっていたか」

 グウェンちゃんが心細そうに身体を抱きしめた。

「にしても、ここんとこよくノラ異世界人に会うな」

「のらって……でもそうかも」

 っていうか今までの旅路で出会った異世界人ほとんど仲間になってない?

「少なくともヒガシミョーかランカスターにはいたんだろうな、ノラ異世界人が」

「そんなこと言ったら、トゥーサがいちばんノラ異世界人っぽかったんじゃないか?」

「はは! 言えてら」

「……ふぅ~ん」

 いろんなことを考えすぎて疲れちゃった。頭をラクにしたいけど、そうすると岩にごっつんこしちゃうので両腕をクッション代わりにする。

(異世界人。みんなどうしてるんだろ?)

 カニシュ、スティ、チコちゃんみたいにこの世界にうまく溶け込んでるのかな?

 サっちゃんがそうだったみたいに、ひとりで苦しんでたりしないかな?

 以前の記憶がなくなって、頼れる人がいなくてこわくなってないかな?

(わたしはこわかった)

 たぶん、オジサンと出会ってなかったらこわくて、かなしくてダメになってたかもしれない。

 この世界にはまだたくさんの異世界人がいるし、今後もたくさんやってくるかもしれない。

 そんな異世界人のみんなといっしょになって、仲良くできないかな?

(そうだ、オジサンってけっこーエラい人なんだよね? ならオジサンに頼んで、異世界人たちを助ける組織をつくってもらえばいいんじゃない?)

「グレース?」

「んえ?」

 間近に声。気づいたら目の前にビーちゃんの顔があった。

「ぼーっとしてたな考え事か?」

「うん、まあ」

「……おい、グレースおまえ、なんか顔赤くないか?」

「え? そう?」

 ぜんぜんそんなつもりないんだけど――あれ?

(あれれ?)

 なんかみんなぐるぐるしてるんだけど?

「あー」

(うん、これはアレだ)

 ゆあたりだ。

「なに呆けた口を、ってグレース? おいッ」

 ふらっとしてお湯にドボーン! しそうになったところを引き締まったものに抱きとめられた。いままでずっといっしょに旅してきたけどこんな濃密なボディタッチはじめてだ。

 ムダな肉のない、それでいて弓を引くための筋肉が敷き詰められたしなやかな腕。弓を絞った姿勢を維持するための上半身がやさしく身体をつつみこむ。そこにある双峰はやわらかく、ビーちゃんの身体は一種の芸術品のような高い完成度を誇っていた。

「おいしっかりしろ」

 それでいて他人を気遣うこのこころの広さといったらもう、点数はつけられないけどあえて言うなら――。

「ひゃくてんまんてんだわ」

「ダメだアタマがトンじまってる。むりすんな、風呂出てすこし涼んでれば落ち着くだろうさ」

「うん、そうする」

「あ、あたしも出ます」

 のっそり露天風呂から足を出すわたしに続き、すべてがこじんまりとおさまった少女が水面を揺らした。





「ン、ン――ん、っぷは~いきかえるわぁ~」

 入浴後の一杯。やっぱ温泉といったらこれよコレ!

「おいしー! ミックスジュースって書いてあるけどなんのミックスかな?」

「グレースさま、あまりむりしないほうが良いのでは」

「もうへーきだよ。おふろ出てスッキリ気分爽快だね!」

 おっとそうだ忘れちゃいけない。

「はいグウェンちゃんのぶん」

 わたしはビンを差し出した。されたほうは戸惑った顔してる。

「そんな、あたしは自分のおかねで買いますから」

「いーのいーの、どうせオジサンのへそくりからとったヤツだもん」

「えっ」

 それはどうなの? って顔された。

「いーんだって。オジサンすぐお酒につかっちゃうしビーちゃんから許可もらってるし、だいいち"私にスキがあればいつでも仕掛けてくれて構わない"言うてたのオジサンだもん」

「は、はあ」

 ってことで受け取っていただきました。ミックスジュースはほんのりピンク色だけどこっちは温泉よりまっしろなお飲み物、すなわち牛乳である。育ち盛りにはやっぱミルクだよね。

「それはいいのですが、タオルいちまいで出歩かず服を着たほうが良いのではありませんか?」

「あーそうだった」

 脱衣所に出たときはさすがにボーッとしちゃってて、とりあえず涼みたいから身体を拭いただけでまだ何も着てないんだった。

 ってことですかさず装備完了。サっちゃんとビーちゃんはまだまだ楽しんでるようだから、さきにお部屋に帰ろうかと脱衣所を出ました。

「およ?」

 そしたら、同じように温泉から出たばっかりっぽいスプリットくん発見。廊下の先にある休憩所に身体を寄せていましたと。

「スプリットくーんやっほー」

「お、おう」

「ん? どーしたの顔赤いよ?」

 のほほんスマイルでやってきたのにスプリットくんはつっけんどんな態度である。ははーんさてはいっしょだな?

「のぼせたんでしょーわたしもそうだったんだ」

「いや、オレはべつに」

「隠さなくてもいいって。ねえねえそれよりアイス食べない? わたしおなかすいちゃった」

「せっかく温まったのにアイス食べるんですか」

「いいじゃん。グウェンちゃんも食べなよ」

 善は急げだ。わたしはざぶとんに腰を下ろす前にカウンターに向かって歩いていった。
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