まくらなげをしたい!
「まくら投げの起源っていつだ?」 っと思って調べたら英語版Wikipediaに『Makura-Nage』があって草。
さんにんでアイスを食べつつくつろいでたら、後から出てきたビーちゃんとサっちゃん、そしてオジサンも合流してきた。それから部屋にもどると、テーブルいっぱいにたくさんのお皿とおいしそーなにおいがしたのです!
そっからはもう無我夢中だったね。アレもおいしいコレもおいしいって。ただどうしても気になることがあって、なんであんなにお皿いっぱいなんだろう? ぜんぶいっしょにしたほうがすぐ食べられて楽ちんなのに。
食事はチコちゃんともうひとりの中居さんが運んでくれた。わたしはあまり気にしてなかったんだけど、ビーちゃんは鍋の下にある火がつく石? みたいなのを気にしてた。あとライターも。あ、ここのライターは魔法で着火するやつで……ん? えっと、じゃあふつうのライターってなんだろう? ――まあいいや。
ちなみに、部屋割りはこっちがわたし、ビーちゃん、グウェンちゃん。んでとなりがオジサン、スプリットくん、サっちゃんになります。温泉に入るまえ、サっちゃんが「おとこふたりと寝るのは不安だろう?」とか男気あふれるセリフを残して荷物移動したんだけどキミもオンナの子だよね?
幸せな時間を過ごしておなかパンパンになったころ、隣の部屋にいたオジサンがやってきて「情報収集してくる」とだけ言い残して姿を消した。たぶんスティさんのトコだと思う。日をまたぐ前には帰るって言ってたけどどうだか。
「ねえねえ、チコちゃんはなんでここで働いてるの?」
次々と並べられる皿をたいらげ、おいしいごはんを三度おかわりし、それらを片付けおふとんを敷きはじめたチコちゃんにそのようなことを聞いてみた。
「んー、なんとなくかなー」
そしたら、そんな間延びした声がかえってきた。
いちばん広い座敷。さっきまであったテーブルはすみっこに追いやられ、いまはふっかふかのモッフモフがそこに横たわっている。
「でもな、よくわかんないけど、おらあこういう仕事なれっこなんだよー」
「なんでそう思うの?」
「やってて楽しいんだ」
だれもがわかる心からの笑顔だった。
「毎日いろんな人とあって、話して、そんでいい気持ちで帰ってもらえる。ウチはみんなが笑顔になれるのがいちばんだと思うんだぁ」
「あ、それわかるー」
「でしょー? 旅館のみんなも良くしてくれてるんだ。ねー」
「ねー」
となりでふとんを広げてる最中のおねーさんがステキな笑顔をこちらに向けた。そんな中でも、ふたりの手は止めることなく目の前の作業に向かっている。
「でもはじめはビックリしたわよ。お客さまのために部屋を用意しようと思ったらヘンな服の女の子が寝てたんだもの。ほんとに何も覚えてないの?」
「あははー、ほんとに何も覚えてないんですよー。でも良かったですぅ。もし出ていけなんて言われてたら、ウチいまごろホネになってたかも」
「そんなことしないわよ。それに、チコちゃんはたくさん働いてくれるから頼もしいわ。みんなからも評判よ?」
「へぇ、大人気なんですね!」
「いやぁそれほどでも」
まんざらじゃないテレ顔である。ここまでヨイショされたらさすがに作業の手が止まった。
「あらためてだけど、わたしグレースって言います。ねえチコちゃんオトモダチにならない?」
「おともだちですか? いいですよ! グレースさんなんか楽しそうだし」
「それじゃそれじゃ、今からなにしてあそぶ?」
「なにして、って言っておきながらセットしたまくら鷲掴みにするのやめてくださいよー」
旅館の夜といったらやっぱまくら投げだよね!
「うー、でもでもやっぱやりたいじゃん!」
「気持ちはありがたいけど、ウチらはまだやることがいっぱいあるんだぁ」
言って、チコちゃんと中居さんはスッと立ち上がり部屋を後にする。残されたわたしは駄々っ子のように、っていうか完全に駄々っ子になって大の字になった。
「えーチコちゃんとあそびたいーババ抜きしたいウノしたいまくらなげしたいー!」
「ごめんねぇいま人が足らなくて、よその部屋もやんなきゃなんですよ~」
「人が足りててもおきゃくさんと遊んじゃダメでしょ」
「えへ、そうでした。それじゃグレースさん。良い夢を」
そしてふたりは、和室の扉をしずかに開き出ていってしまった。
「あぁーあタイクツー」
「ふふ、振られてしまったな」
お部屋と外の間にあるなんかワケのわからないスペースで弓の手入れをしてるビーちゃんが唇を開いた。
「お仕事中なのですから仕方ないですよ」
これはグウェンちゃんだ。おなじくワケわかめスペースにて本を読んでる。こまっかいのよく読めるなーわたしだったらさいしょの一ページでもうだめだわ。
「つーんだ。もういいよ、みんなであそぶもん」
「遠慮しておく」
「右におなじく」
「んっふっふー聞こえなかったのかな?」
わたしは、みんなであそぶと言ったのですよ?
「え? ――グレース?」
「きえた? グレースさまどこに?」
抜き足差し足忍び足。我が右腕には今は鋭利な刃物ではなくもふもふやわらか兵器を握りしめているでござる。
(いざ!)
「へぶぅ!」
さいしょのターゲットは読書に耽っている少女である。さあ顔面にまくらをくらうがいい!
「グレースさま! 読書中になんてことするんですか!」
「同感だ。やっていいことと悪いことがあるぞ?」
そんな批難のことばを浴びつつやっちゃうもんね! 次はビーちゃんの頭上から――ッ!
「なん――だとッ!」
受け止められた!
「しつけがなってない小娘には少々キツいお灸を据えてやる必要があるな」
「あっ」
これマジの目だ。
「……ごめんなさい」
ゆるしてもらえなかった。
ナゾスペースで正座させられた。
足がしびれた。ぐすん。
そっからはもう無我夢中だったね。アレもおいしいコレもおいしいって。ただどうしても気になることがあって、なんであんなにお皿いっぱいなんだろう? ぜんぶいっしょにしたほうがすぐ食べられて楽ちんなのに。
食事はチコちゃんともうひとりの中居さんが運んでくれた。わたしはあまり気にしてなかったんだけど、ビーちゃんは鍋の下にある火がつく石? みたいなのを気にしてた。あとライターも。あ、ここのライターは魔法で着火するやつで……ん? えっと、じゃあふつうのライターってなんだろう? ――まあいいや。
ちなみに、部屋割りはこっちがわたし、ビーちゃん、グウェンちゃん。んでとなりがオジサン、スプリットくん、サっちゃんになります。温泉に入るまえ、サっちゃんが「おとこふたりと寝るのは不安だろう?」とか男気あふれるセリフを残して荷物移動したんだけどキミもオンナの子だよね?
幸せな時間を過ごしておなかパンパンになったころ、隣の部屋にいたオジサンがやってきて「情報収集してくる」とだけ言い残して姿を消した。たぶんスティさんのトコだと思う。日をまたぐ前には帰るって言ってたけどどうだか。
「ねえねえ、チコちゃんはなんでここで働いてるの?」
次々と並べられる皿をたいらげ、おいしいごはんを三度おかわりし、それらを片付けおふとんを敷きはじめたチコちゃんにそのようなことを聞いてみた。
「んー、なんとなくかなー」
そしたら、そんな間延びした声がかえってきた。
いちばん広い座敷。さっきまであったテーブルはすみっこに追いやられ、いまはふっかふかのモッフモフがそこに横たわっている。
「でもな、よくわかんないけど、おらあこういう仕事なれっこなんだよー」
「なんでそう思うの?」
「やってて楽しいんだ」
だれもがわかる心からの笑顔だった。
「毎日いろんな人とあって、話して、そんでいい気持ちで帰ってもらえる。ウチはみんなが笑顔になれるのがいちばんだと思うんだぁ」
「あ、それわかるー」
「でしょー? 旅館のみんなも良くしてくれてるんだ。ねー」
「ねー」
となりでふとんを広げてる最中のおねーさんがステキな笑顔をこちらに向けた。そんな中でも、ふたりの手は止めることなく目の前の作業に向かっている。
「でもはじめはビックリしたわよ。お客さまのために部屋を用意しようと思ったらヘンな服の女の子が寝てたんだもの。ほんとに何も覚えてないの?」
「あははー、ほんとに何も覚えてないんですよー。でも良かったですぅ。もし出ていけなんて言われてたら、ウチいまごろホネになってたかも」
「そんなことしないわよ。それに、チコちゃんはたくさん働いてくれるから頼もしいわ。みんなからも評判よ?」
「へぇ、大人気なんですね!」
「いやぁそれほどでも」
まんざらじゃないテレ顔である。ここまでヨイショされたらさすがに作業の手が止まった。
「あらためてだけど、わたしグレースって言います。ねえチコちゃんオトモダチにならない?」
「おともだちですか? いいですよ! グレースさんなんか楽しそうだし」
「それじゃそれじゃ、今からなにしてあそぶ?」
「なにして、って言っておきながらセットしたまくら鷲掴みにするのやめてくださいよー」
旅館の夜といったらやっぱまくら投げだよね!
「うー、でもでもやっぱやりたいじゃん!」
「気持ちはありがたいけど、ウチらはまだやることがいっぱいあるんだぁ」
言って、チコちゃんと中居さんはスッと立ち上がり部屋を後にする。残されたわたしは駄々っ子のように、っていうか完全に駄々っ子になって大の字になった。
「えーチコちゃんとあそびたいーババ抜きしたいウノしたいまくらなげしたいー!」
「ごめんねぇいま人が足らなくて、よその部屋もやんなきゃなんですよ~」
「人が足りててもおきゃくさんと遊んじゃダメでしょ」
「えへ、そうでした。それじゃグレースさん。良い夢を」
そしてふたりは、和室の扉をしずかに開き出ていってしまった。
「あぁーあタイクツー」
「ふふ、振られてしまったな」
お部屋と外の間にあるなんかワケのわからないスペースで弓の手入れをしてるビーちゃんが唇を開いた。
「お仕事中なのですから仕方ないですよ」
これはグウェンちゃんだ。おなじくワケわかめスペースにて本を読んでる。こまっかいのよく読めるなーわたしだったらさいしょの一ページでもうだめだわ。
「つーんだ。もういいよ、みんなであそぶもん」
「遠慮しておく」
「右におなじく」
「んっふっふー聞こえなかったのかな?」
わたしは、みんなであそぶと言ったのですよ?
「え? ――グレース?」
「きえた? グレースさまどこに?」
抜き足差し足忍び足。我が右腕には今は鋭利な刃物ではなくもふもふやわらか兵器を握りしめているでござる。
(いざ!)
「へぶぅ!」
さいしょのターゲットは読書に耽っている少女である。さあ顔面にまくらをくらうがいい!
「グレースさま! 読書中になんてことするんですか!」
「同感だ。やっていいことと悪いことがあるぞ?」
そんな批難のことばを浴びつつやっちゃうもんね! 次はビーちゃんの頭上から――ッ!
「なん――だとッ!」
受け止められた!
「しつけがなってない小娘には少々キツいお灸を据えてやる必要があるな」
「あっ」
これマジの目だ。
「……ごめんなさい」
ゆるしてもらえなかった。
ナゾスペースで正座させられた。
足がしびれた。ぐすん。