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作者: 犬物語
戦闘になった時点で隠密失格よ
異世界人は世界の歩み方によりスキルを覚えやすくなります

この世界の住人は読書等で知識を身につけたり、誰かに師事したり、訓練などで身につけられます
(ヤバッ!)

 目と目が合って心臓がトゥンク。
 恋じゃねーし。
 反射で身を引き柱にバック。
 バレたかな? だいじょーぶかな?

「……」
「かしら? なにか?」

 訝しそうに尋ねるゴロツキの声。
 見えなくともわかる。
 ヤツらは今こっちに視線を向けてる。
 背を向けてた時より声がクリアだ。

「なんでもない。その荷物は例の場所に集めておけ」
「へい」
「かしらは?」
「すぐに戻る」
(くそう)

 ブッちゃんに負けねーくらいいい声だな。
 じゃなくて。
 よかった。たぶんバレてない。
 危うく忍者失格の烙印を押されるとこだった。
 男が去っていく。靴音でわかる。

(あーでもダメ)

 ちょっと落ち着こう。
 深呼吸で心臓とご相談。リラックスりらっくす~。

 現状把握しよう。
 ここは図書館。
 実は盗賊のアジト。
 なんかヤバいブツ隠してた。

(よしおーけー。報告だ)

 わたしの忍者センサーが警鐘を鳴らす。
 あの男はヤバい。
 これ以上の長居はキケンだ。
 すぐ逃げろ。見つかる前に。

「ここで何をしてる?」
「……」

 ワタシ、ナニモキコエナーイ。

「ここで何をしてる?」
(もっかい言うか!)

 ここまで来んのはえーよ。
 上階だしたった今姿消したばかりじゃん。
 なんでだよふざけんなもうちょい考える時間よこせ。

(あーもう)

 迂闊。目が合った時点でこの場所から動くべきだった。
 決して悟られるな。
 どこからかオジサンの声が響く。
 ああ知ってますよその後の言葉。
 見つかり、戦いになった時点で隠密失格だでしょ?
 へーいへいどーせわたしはうるさい暗殺者ですよーだ。

 けどまだチャンスはある。
 こちらは暗殺者ジョブ装備だし顔を見られてない。
 背中にひんやりした感触。
 わかる。動けばヤられる。
 時間稼ぎあんど男の殺気を挫くには手段が必要だ。
 じゃあ仕方ない。裏技を使おう。

「こ」
「こ?」
「こぜにをー、おとしてー」
「……ふっ」
(わらった!)

 じゃあ許してもらえるよね!

「悪いが、ここを見られた以上生かして返すわけにはいかん」

 殺気リバース。反射的に跳ぶ。
 わたしがいた空間が爆発した。

「あえて外した、と言いたいが思わぬ反応と跳躍力だ」

 悔し紛れのセリフじゃない。
 こいつはわたしが逃げる時間を与えた。
 もちろん、そんな時間いらなかったけど今のスキル? の威力はマジやばい。

「ひとりではないだろう? どこの回し者だ」

 憎らしいことに、あっちの顔も確認できなかった。
 暗色のフードとマフラー。
 くそ、おそろいかよ。

(お互い知られちゃまずいお仕事のようですね)

 撤退するか戦うか。
 懐に手をやる。
 投擲にも使えるナイフが三本。
 切っ先に柄を付けた刺突用短槍が一本。
 ドロちん開発のピカピカ弾がひとつ。
 戦うには物足りない。じゃあ撤退? いや。

(出口が塞がれてるでござる)

 どーしてそっち脱出口に跳ばなかったわたしのバカちん。

「……アナタは異世界人?」

 とりあえず時間稼ぎを試みる。
 男の目が「断る」と言っております。

「時間は与えたぞ。答えろ」
(あーそうですか)

 しゃーねー、ヤるか。
 杖も本もなし。媒体なしでスキル詠唱?
 違う。発動するとき手がこっち向いた。
 手をこっち向ける前によければいい。

「そうか」

 男がこちらの意図を察したようで「ひょわっ!!」
 ズドン。
 ちょっとまて! こっちが語らってる途中じゃないの!

「女か」
(おしゃべりしながら魔法撃つのやめてくんない!?)

 ズドン、バコン、ドカン。
 音は花火や銃声のごとく盛大。
 そのクセ周囲になんら影響なし。
 なにそれ魔法? いやひゃくぱー魔法だよね。

「な、なんだ!」
「かしら!」

 作業中の盗賊たちがこちらの様子に気付いた。
 やっべー。あいつらまで参戦したら逃げられる気がしない。

「素早いな、ならば」

 それに加え、謎の男さんこんどは両手の平をばんざい。
 上がった手からなにか? んーにゃ地面に魔法陣が生まれました。
 どーみても触手です。
 洞窟でドロちんに絡んでたヤツ。
 しかもたくさんうじゅるうじゅるしてる。
 図書館埋め尽くしてるし。
 いくらなんでも多すぎませんかね?

(暗器一本じゃどうしようもないのですがそれは)
「やれ」
(無慈悲!)

 四方八方からからしょくしゅー!

「うわっ、ちょ、ひゃあ!」
「いつまで逃げられるかな?」

 いつまでも! って言いたいとこだけどムリです。
 お遊びなら朝日から満月までレッツパーティーといきたいけど。
 これシリアスなバトルなんだよね。

(あ、やばっ)

 足をとられた。素早さがウリのわたしにはこれ致命的。
 続けざまに両腕、腰に巻き付かれ完全に拘束された。
 大の字で固定され身動きがとれない。
 洞窟でドロちんが受けた恥辱と同じポーズである。
 触手はこのカッコが好きなのか?

 ローパー触手はツルツルだけど粘液まみれだった。
 こっちは太さまちまち長さ無限大。
 タコみたいな吸盤が装備と肌に吸い付いてくる。
 たぶん捕獲した獲物を逃さないため。
 それはいーんだけど、いやよくないんだけど。
 さっきからデリケートゾーンちゅっちゅするのやめてもらえませんか?
 けっこう深いとこまで入ってるんですけど。

(あ、ちょっとまって)

 これ服だけを溶かす触手とかじゃないよね?
 せっかく新調したニュー・ワンを早速ダメにしたくないんだけど?

「最後にもういちどだけ聞く」

 ひと仕事終えたイケボ魔術師は、そのままコツコツとこちらへ接近した。

「誰の回し者だ?」
「ううッ!!」

 男が手を操作するたび触手がキツく縛り上げてくる。
 これ詰み? んーにゃ、まだ手首の袖に仕込んだ針が残ってる。
 猛毒だ。これが触手に効くかどうかしらんけど。

「答えろ。そうすれば命だけは助けてやる」
(ダウト。でも考える時間稼ぎにはちょうどいい)
「……さっき本気で殺そうとしてたじゃん」
「気が変わった。さあ、こちらの気分が再度切り替わる前に答えたほうが身のためだぞ」
(くっ)

 こんどは吸盤の吸い付きがキツくなった。
 細い触手が服の間から侵入し、その吸盤を直接肌に吸い付けてくる。
 より効率的に相手を痛めつけられるように。
 毒の類はない。ただ吸盤の中心に針があるようだ。
 刺すような痛みに唇を噛み、わたしはフードの下を覗き込む。

(もう少し近づいてくれれば)
「なら、もうちょっと近づいてよ」
「なぜだ」
「すっげーイケボじゃん。きっと顔もイケメンでしょ? 見せてよ、おにーさんの顔」

 オトモダチにはならないけど。
 男は笑った。

「時間稼ぎなど不毛なことを。なんの意味がある?」
「どーせ死ぬなら最後に目の保養くらいさせてよ」
「……」
(マジで迷ってんのかこいつ)

 いちおう、時間稼ぎの意味はある。
 ひとつはみんなの加勢を期待して。
 男の攻撃は大きな音を伴っていた。
 だから、それで異常を察知した仲間が助けに来てるれるという願望。
 もひとつは顔の確認。
 ブルームーンが一枚噛んでるのはわかった。じゃあ他は?
 協力者の存在。
 フラーからレブリエーロにフラッツ・スワン。
 これほど大規模に版図を広げるなら協力者が必要だ。

(オジサンならそう考える)

 だからわたしもそう考える。

「悪いが、冥土の土産とはいかぬな」

 そんなのどーでもいーよバカだこいつ。
 とはいえ、こっちがピンチであることは変わりなし。
 迷ってる暇なんてないね。

 やる。

 そう決めた時だった。
 図書館の階下、盗賊たちがいるその下から激しい爆発音がした。

「何事だ!」

 男が下にいる盗賊たちに叫ぶ。
 待ておかしい。
 あいつらはこっちの物音に気付いたはずだ。
 だからすぐにでも駆けつるはずだった。
 そんな盗賊たちが、なぜニ階でそのまま倒れてる?

「ッ!?」

 男は背を反らす。その一瞬に光が通り抜ける。
 その向こう側の壁にナイフが突き刺さった。

「避けんなよめんどくせえ」
(その声、さくら!?)

 わたしは針を取り出した。
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