ダンジョンとデスペナルティー
初回ボーナスってことで。あとグレースちゃんはじめみんな気づいてないけど、ジーニアスくんからそれぞれ職業に対応したステータスボーナスを得ています。
「……」
むくり。
わたしは起き上がった。
そして見渡す。
なにもない。
石に囲まれた世界。
ひんやりしたカチカチの床。冷えた空気が深く沈殿して、凍りついたわたしの心をさらに氷結していく。ふと見上げるとはしごがあって、わたしは今までのすべてを思い出していた。
はしごを降りて、ダンジョンに潜って、いろんな物を拾ってマモノたちに追いかけられて。
あんなにわくわくした気持ちはどこに行ったのだろう?
「……」
言葉無くそこを見る。
倒れたままの仲間たち。
みんなかけがえのないオトモダチ。
「ッ!」
一瞬だけあの光景が浮かび上がり、わたしはブンブンと首を振った。
みんな生きてるんだ。
だいじょうぶなんだ。
それを実感したくて、わたしは鎧を脱ぎ捨てたルームメイトの胸に触れた。
「あたたかい」
これがあんずちゃんの鼓動なんだね。
「ン――ぅ」
それがスイッチになったのか、あんずちゃんは眉根を寄せて重い上半身をもたげた。
「ここは……グレース、何してますの?」
「あんずちゃん!」
「あっ!」
がばっ。
わたしは抱きついた。
「ちょ、グレース、やめ、何してますの!?」
「よがっだあぁぁあああああんずちゃんいぎでるぅ」
抱きついて、
安心して、
体の力が入らなくなっちゃった。
「重たいですわ! どいてくださいな」
「んー」
やだ。
もっとあんずちゃんを感じたい。
わたしは全体重を最高のオトモダチに乗せた。
「なにが、起きた?」
すぐ傍で渋いテノールボイスが響く。肌の黒い僧侶が上半身を起こして額に手を当てていた。
「ここは、ダンジョンの入口ではないか? いったいどういうことだ?」
「負けたのよ」
続けて覚醒魔法少女も今は人間の姿で目覚める。ただ黙ってむくりと起き上がり、自分の両手を見つめ、震わせ、握りしめ、キュッと目を閉じる。
わたしは脱力した身体を奮い立たせ、こんどは純白の肌をもつロリっ子にダイブした。
「ドロちん!」
「こら」
抗議の声をあげるも、ドロちんは力なくそれを受け止めた。
そして身体とおなじような大きさの声で言った。
「……みんな無事で良かった」
「ブーラーさん!」
あんずちゃんが慌てた様子で駆け寄っていく。
そうだ。
あの時、あんずちゃんが最期に見た光景は、自分をかばって身体をまっぷたつにされた僧侶の姿だった。
「ブーラーさん! 無事なのですか!?」
「う、うむ……自分でも信じられんが、この通りだ」
「ブッちゃん!」
大きな胸に飛び込み、わたしの身体はすっぽりと収まった。
身体ごとぶつかってもビクともしない包容力。
僧侶はすこしだけ驚き、それからすこし笑い、大きな手でわたしを包みこんでくれた。
「グレース。お主も無事で良かった」
「どういうことですの? わたくしたちはあのドラゴンに……」
そこから先の言葉に詰まる。そのかわりドロちんが唇を開いた。
「死んだわ」
「だが生きてる。なぜだ」
「さいしょからこうなる仕組みだったのよ。ダンジョンを攻略して最後に登場するボスと戦う。負ければはじめからやりなおし……あのクソ犬め」
クソ犬。
たぶん、ジーニアスのことだろう。
「ウチらを出汁に使いやがって。はじめっからクリアできないダンジョンを攻略させるつもりだったんだわ……ッ!」
ドロちんがはっとして、慌てて在庫で異次元空間をまさぐる。
「よかった。攻略中に手に入れたアイテムはぜんぶ無事だ」
(あぁ、そういえばジーニアスがデスペナがどうとか言ってたな)
全滅するとダンジョン攻略中に手に入れたアイテム全没収だっけ。
それヒドくない?
言っとくけどまだ許してないからね?
(こんど夢に出たらありとあらゆる手段でジーニアスくんをけちょんけちょんにしちゃうんだから)
「なんにしても、みんな無事でよかったですわ……なんだったのでしょう。今までのことがぜんぶ夢に思えてきました」
「だが事実だ……それに、なぜか知らんが、次同じ目に遭ったらそれまでの経験がすべてパーになりそうな気がする」
「わたくしもです。偶然ですわね」
そんなふたりにドロちんが何か言いたそうで、それを口にする前にはるか頭上からこちらを呼ぶ声が響く。
調査隊の人たちだ。心配になって覗き込んだのだろう。そしたらわたしたちがいて声をかけた。
そういえば、ダンジョンに潜ってどれほどの時間が経ったのだろう? その答えを告げるかのように、調査隊は暗闇の奥から蝋燭の光を揺らす。
「この状況をどう説明したものか……」
上からの声に返事をしたり、はしごに手を伸ばしてみたりする中、ブッちゃんは眉間にシワを寄せダンジョンの奥へと続く道に視線を送っていた。
(地下深くにドラゴンがいましてー、みんなぶっ殺されたけど実は生きててー、なんかダンジョンの入口に戻されてましたー、なんて)
信憑性ゼロですありがとうございます。
むくり。
わたしは起き上がった。
そして見渡す。
なにもない。
石に囲まれた世界。
ひんやりしたカチカチの床。冷えた空気が深く沈殿して、凍りついたわたしの心をさらに氷結していく。ふと見上げるとはしごがあって、わたしは今までのすべてを思い出していた。
はしごを降りて、ダンジョンに潜って、いろんな物を拾ってマモノたちに追いかけられて。
あんなにわくわくした気持ちはどこに行ったのだろう?
「……」
言葉無くそこを見る。
倒れたままの仲間たち。
みんなかけがえのないオトモダチ。
「ッ!」
一瞬だけあの光景が浮かび上がり、わたしはブンブンと首を振った。
みんな生きてるんだ。
だいじょうぶなんだ。
それを実感したくて、わたしは鎧を脱ぎ捨てたルームメイトの胸に触れた。
「あたたかい」
これがあんずちゃんの鼓動なんだね。
「ン――ぅ」
それがスイッチになったのか、あんずちゃんは眉根を寄せて重い上半身をもたげた。
「ここは……グレース、何してますの?」
「あんずちゃん!」
「あっ!」
がばっ。
わたしは抱きついた。
「ちょ、グレース、やめ、何してますの!?」
「よがっだあぁぁあああああんずちゃんいぎでるぅ」
抱きついて、
安心して、
体の力が入らなくなっちゃった。
「重たいですわ! どいてくださいな」
「んー」
やだ。
もっとあんずちゃんを感じたい。
わたしは全体重を最高のオトモダチに乗せた。
「なにが、起きた?」
すぐ傍で渋いテノールボイスが響く。肌の黒い僧侶が上半身を起こして額に手を当てていた。
「ここは、ダンジョンの入口ではないか? いったいどういうことだ?」
「負けたのよ」
続けて覚醒魔法少女も今は人間の姿で目覚める。ただ黙ってむくりと起き上がり、自分の両手を見つめ、震わせ、握りしめ、キュッと目を閉じる。
わたしは脱力した身体を奮い立たせ、こんどは純白の肌をもつロリっ子にダイブした。
「ドロちん!」
「こら」
抗議の声をあげるも、ドロちんは力なくそれを受け止めた。
そして身体とおなじような大きさの声で言った。
「……みんな無事で良かった」
「ブーラーさん!」
あんずちゃんが慌てた様子で駆け寄っていく。
そうだ。
あの時、あんずちゃんが最期に見た光景は、自分をかばって身体をまっぷたつにされた僧侶の姿だった。
「ブーラーさん! 無事なのですか!?」
「う、うむ……自分でも信じられんが、この通りだ」
「ブッちゃん!」
大きな胸に飛び込み、わたしの身体はすっぽりと収まった。
身体ごとぶつかってもビクともしない包容力。
僧侶はすこしだけ驚き、それからすこし笑い、大きな手でわたしを包みこんでくれた。
「グレース。お主も無事で良かった」
「どういうことですの? わたくしたちはあのドラゴンに……」
そこから先の言葉に詰まる。そのかわりドロちんが唇を開いた。
「死んだわ」
「だが生きてる。なぜだ」
「さいしょからこうなる仕組みだったのよ。ダンジョンを攻略して最後に登場するボスと戦う。負ければはじめからやりなおし……あのクソ犬め」
クソ犬。
たぶん、ジーニアスのことだろう。
「ウチらを出汁に使いやがって。はじめっからクリアできないダンジョンを攻略させるつもりだったんだわ……ッ!」
ドロちんがはっとして、慌てて在庫で異次元空間をまさぐる。
「よかった。攻略中に手に入れたアイテムはぜんぶ無事だ」
(あぁ、そういえばジーニアスがデスペナがどうとか言ってたな)
全滅するとダンジョン攻略中に手に入れたアイテム全没収だっけ。
それヒドくない?
言っとくけどまだ許してないからね?
(こんど夢に出たらありとあらゆる手段でジーニアスくんをけちょんけちょんにしちゃうんだから)
「なんにしても、みんな無事でよかったですわ……なんだったのでしょう。今までのことがぜんぶ夢に思えてきました」
「だが事実だ……それに、なぜか知らんが、次同じ目に遭ったらそれまでの経験がすべてパーになりそうな気がする」
「わたくしもです。偶然ですわね」
そんなふたりにドロちんが何か言いたそうで、それを口にする前にはるか頭上からこちらを呼ぶ声が響く。
調査隊の人たちだ。心配になって覗き込んだのだろう。そしたらわたしたちがいて声をかけた。
そういえば、ダンジョンに潜ってどれほどの時間が経ったのだろう? その答えを告げるかのように、調査隊は暗闇の奥から蝋燭の光を揺らす。
「この状況をどう説明したものか……」
上からの声に返事をしたり、はしごに手を伸ばしてみたりする中、ブッちゃんは眉間にシワを寄せダンジョンの奥へと続く道に視線を送っていた。
(地下深くにドラゴンがいましてー、みんなぶっ殺されたけど実は生きててー、なんかダンジョンの入口に戻されてましたー、なんて)
信憑性ゼロですありがとうございます。