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作者: 伽藍堂
残酷な描写あり
第十一話 『捨て身の剣士と雷狼』

 ノアがレイシアのもとに現れる少し前、ノアはアルバートを抱えてブラックウルフに乗りアイリス達と共に、ジーク達が向かった西の拠点に急いでいた。
 すると、突然ブラックウルフが二頭同時に吠え始める。

 「ワン! ワンワン!」
 「何か伝えようとしてるのか?」
 「ワン!」

 ノアの問いに答えるように吠えた。

 「アルバート。何って言ってるか分かるか?」
 「聞いてみる! もう一度言ってくれ!」
 「ワンワン! ワン、ワンワン!」
 
 アルバートは真剣にブラックウルフの話を聞き、分かる範囲の事をノアに伝える。

 「え〜と……主が、危険。だから、主のもとに行きたいって言ってるぞ!」
 「行きたいってのは、どういう事だ? 今、向かってるよな?」
 「ワン!」
 「ん〜なになに。自分たちは、で戻れる? だって」
 「じゃあ、それで俺たちも一緒行けば」
 「ワン!」
 「それは、主に人を乗せての影はダメって言うわれてるみたいだぞ! 大怪我するからだって」
 「なら多分、俺は大丈夫だ。影で」
 「――待って下さい! 兄さん、それは危険過ぎます!」

 アイリスがそう言い、ノアを止める。
 しかし、ノアはそれを聞かずにアルバートをアイリスにそっと投げ渡す。
 
 「悪い。アイリス、アルバートを頼む」
 「――兄さん!!」
 
 次の瞬間、ノアが乗っているブラックウルフが影に沈み、そのままノアも影に沈んでその場から姿を消した。

 

 ◇◇◇

 
 「どっから現れやがった! テメェ!」
 
 レイシアの足元の影から現れたノアはすぐさま、剣を抜きディランの攻撃を受け止め鍔迫り合いになる。
 ノアはブラックウルフに跨り、下半身に力が入らない状態で相手の攻撃をしっかりと持ち堪える。
 しかし、全身の激しい痛みに遅れて気づき、力が抜けて押し負けてしまう。

 【魔力波ディル・インパクト
 
 ノアの肩に深々と剣が食い込んだ所でレイシアがディランの頭を魔力の衝撃波で撃ち抜く。

 「ハッ、テメェ如きの下級魔術なんて効くわけ、ねぇだろ!」

 レイシアの攻撃を物ともせず、ディランは更に剣を食い込ませる。
 その光景を何も出来ず、見ているだけのヴォルフは奥歯を噛み締める。

 (俺はなにも……あの頃と何も変わってない)

 ヴォルフの脳裏に昔の記憶が駆け巡る。

 ◆◆◆

 平和な村に突如現れた、黒薔薇の騎士。子供だった自分は姉と一緒に家の奥に隠れていた。
 そして、一人の黒薔薇の騎士が扉を蹴破り、家に侵入して来た。
 父と母は抵抗むなしく無惨に殺され、次に姉が見つかった。
 笑みを浮かべて、ゆっくりと歩み寄る黒薔薇の騎士に姉は勇敢にも近くに落ちていた武器を手に立ち向かった。
 自分はただ、それを見ていただけ。
 何もせず、家族が殺されるのを見ていただけ。
 地面に落ちた姉の頭がこちらを向いた時、自分は目を瞑り、見ることすら辞めた……。

 ◆◆◆

 「同じは……しない!」

 その時、ヴォルフの持つ魔法武器から雷が発生し、ヴォルフ自身がそれを食らう。
 すると、ヴォルフの身体を雷が覆う。
 動かない肉体にかかる負担を無視して、全神経を魔法武器の雷で支配し、その場から姿を消す。

 「――死ね」
 「あぁ?」

 ディランの背後に雷を帯びたヴォルフが姿を現し、首を狙い刀を振るう。

 「ハッ! おせーんだよ!」

 ディランはノアの肩に食い込んだ剣を引き抜き、水を纏わせ地面に突き刺す。
 すると、水が一瞬で膨張して破裂し大量の水が勢いよく周囲を押し流す。
 ヴォルフは押し流されて、刀が空を切り。ブラックウルフは衝撃を受けて影に沈み、ノアはレイシアと共に流された。
 
 「あのデカブツの一撃に比べたら、テメェの剣なんざ止まってんのと一緒だぜ?」
 
 ディランはジークの一太刀をその身に受けて、現在感覚が限界以上に極まっている。
 対して、ヴォルフも現在全神経を雷で強制的に支配しており、更に雷で肉体も強制的に強化して通常を遥かに超える身体能力を維持している。

 「止まってる剣に斬られてる奴が何、言ってんだ?」
 「は?…………チッ」

 ディランはうなじを少し斬られている事に、言われてから気が付きヴォルフを睨みつける。
 すると、視界からヴォルフが消え、次の瞬間目の前に現れ刀を振るう。
 その全ての動きに雷が尾を引く。
 それを、ディランは魔法武器の剣とで受け止めた。

 「これで、手数の差は無くなっちまったなぁ」
 
 ディランは魔法武器の水を剣の形にして、闘気で覆った即席の剣でヴォルフに対抗する。

 「実際の剣より脆いが、水だから折れる事は無いし、自在に刃を操作できるってなァ!」
 「魔法武器は一度に一つの魔法しか発動できないから、その水の剣がある限り、お前はそれ以外の魔法を出せない!」
 「ハッ! テメェを殺すのに他の技なんてもぅ、必要ねーんだよ!」
 
 ヴォルフとディランの熾烈な戦いが始まった。
 

 ◇◇◇
 
 一方、水で押し流されたノアは傷が癒えるのを今か今かと待ち望む。
 
 「ノアさん、治します!」
 「いや、自分は大丈夫だから魔力は温存して。それより、ジークは?」
 「え? どういう……傷が」

 レイシアはノアの傷が徐々に治癒していく様に困惑する。

 「身体の事は後で説明するから、今はジークの事を教えてくれるか?」
 「あ、はい! えっと、ジークさんは黒薔薇の団長に砦方面に飛ばされてしまいました!」
 「ジークが飛ばされた? 相手は魔術師か?」
 「いや、恐らく剣士だと思います! ジークさんの攻撃を避ける程の実力者で、しかも魔術を使っていました! 多分、私より魔術師として上だと思います」
 「そんな奴が居るのか、信じられないが……」

 ノアは深々と斬られた肩の傷が殆ど塞がったので、肩を回して動作を確認する。

 「よし、行ける。今、アイリス達がこっちに向かってるから、それまで待機しててくれるか?」
 「分かりました! あの……お願いします、倒して下さい!」
 「ああ、そのつもりだ」

 そう言って、ノアは闘気を脚だけに集中させて、地面を蹴り砕き距離を一瞬で詰めて背後から斬りかかる。

 「邪魔すんなッ! 雑魚が!」
 
 ディランは水の剣を伸ばし、その場で回転してヴォルフとノアの攻撃を弾く。
 そして、魔法武器の剣でノアの剣を持つ右手首を斬り裂く。
 ノアは怯まず、直ぐに剣を左手に持ち替えて攻め立てる。

 「ハッ、痛覚どうなってんだ」
 
 ディランは痛む様子の無いノアを不思議に思いながら、激しい攻防を繰り広げる。
 
 「てか、テメェはどうして肩の傷が治ってんだ? あの魔術師じゃあ、完治は無理だろ」
 【――剣技・狂乱螺旋けんぎ・きょうらんらせん

 ディランが目線を肩に逸らした隙にノアは治癒した右手に剣を持ち替えて、技を繰り出す。
 ディランは水の剣を渦巻き状にして、ノアの放った螺旋状の斬撃を迎え撃つ。
 衝撃波が発生して二人の距離が開く。
 ノアの隣にヴォルフが現れて、呼吸を合わせる。

 「もっと速度を上げるぞ……ついて来れるか?」
 「全力で、ついて行く」

 そして、二人は同時に仕掛ける。

 「ハッ、上等だ! かかって来い――!」
  
 ノアとヴォルフの同時攻撃をディランはギリギリで躱し、流れる様にカウンターで反撃に転じる。
 ノアは身体を守る為の闘気を最小限にして、残り全ての闘気を剣に集め、反撃も意に返さず猛追を続ける。
 ヴォルフは感知した全ての攻撃を反射的に回避し、慣性などを無視した機械的な動きで攻撃の手を緩めない。

 「クソッ、なんだコイツら。人の動きじゃねーな」
 「――お前もなッ」

 ヴォルフが足を止めたディランの背後を取り、刀を交差させ斬りかかる。

 「ハッ、読み通り――【剣技・水舞流転けんぎ・すいぶるてん】」

 水の剣が消え、魔法武器の剣を渦巻く水が覆う。
 それを、ヴォルフの攻撃より先に一回転して、鎧のひびをなぞるようにして薙ぎ払う。
 
 「ぐッ」

 ヴォルフの鎧のひび割れた胴体部分がディランの攻撃で完全に剥がれる。
 ディランは動きの流れ止めず、鎧が剥がれた部分に狙いを定め、剣を覆う渦巻く水を極限まで圧縮し突きと同時に解き放つ。

 「終わりだ! 【剣技・廻流斬波けんぎ・かいりゅうざんぱ】」
 「――!!」

 解き放たれた水はヴォルフの胴体をズタズタにした。
 しかし、致命傷には至らず終わったと思って油断しているディランを斬りつける。

 「なッ! 直に食らわせたのに、何で生きてんだ!」
 
 ディランは渾身の技を出したのに、少ししか効いて無い事に動揺する。
 そして、その動揺は大きな隙を生みノアの猛攻に防戦一方になる。

 「クッソ、雑魚が! 調子に乗るなァ!」

 ノアがディランを抑えてる間、ヴォルフは精神統一をして残りの全魔力を次の一撃に込める。
 身体に帯びていた雷が消え、刀を激しく荒れ狂う雷が覆う。

 「これで、終わりだ! 【剣技・雷帝之雷けんぎ・らいていのいかずち】!!」
  
 ヴォルフが刀を振り下ろすと、洞窟の中を雷光で埋め尽くす。
 そして、その一撃はディランを一刀両断し、そのまま突き進み後ろにある巨大な砦を破壊した。

 「な……に、が……?」

 ディランは気がつくと、何かによって深々と斬られた洞窟の天井を眺めていた。
 そして、意識が遠のいて行き、何も分からないまま生き絶えた。
 
 「はぁ…………はぁ……」

 ヴォルフは息を切らし朦朧とした視界の中、黒薔薇の騎士が血を流し地面に倒れている姿を捉える。
 
 「これで…………やっと……一人」

 魔力が底をつき、刀に纏う雷が霧散する。

 「まだ、一振りが限界か……」

 ヴォルフは力尽き、気を失った。

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