残酷な描写あり
R-15
天使が死んで、生まれた日(1)
かつて地上で神と人が共に手を取り合い、暮らしていた時代があったという。
獣の従者を従えた神々は皆超常の力を持っていた。神は力を惜しみなく人に与え、人はそれを利用して現代と比較にならないほどの高度な文明を築き上げていた。
神の力は平等に与えられ、人は飢えも貧困も大きな争いもない、理想郷とも呼べる世界で平和に暮らしていた。
神も人の知恵に敬意を払い、驕ることなく人を守護し続けた。
お互いの関係は永遠に続き、理想郷は完全無欠なものと思われた。
しかし、理想郷は悪魔によって全て破壊されてしまった。
力なき人の台頭を快く思わなかった神が、悪魔と名乗り、邪竜を引き連れ軍団となって神と人に牙を剥いたのだ。
悪魔となったのは極一部の神しかいなかったが、彼らは戦いに優れた神であり、平穏を望む神々と互角以上の力を有していた。
悪魔は人に味方する神々を囚え、神と人が協力して創造した遺産を破壊した。時には、反抗する人々ごと町を滅ぼすことさえあった。
善き神は人を庇い悪魔の侵攻を防ごうとしたが、悪魔の振るう絶大な力の前に多くの神は圧倒されていった。
倒れ臥し悪魔に屈服していく善き神々の中で、只一柱、白き守護の神ロエールは決して悪魔の軍勢に屈しなかった。
ロエールは神の中でも随一の守りの力で弱き民と争いを好まぬ神を庇護し、十一の天使と白き竜と共に悪魔を打ち倒していった。
そして、遂にロエールは悪魔の頂点に立つ魔王ルイノエを封印し、人の世界を取り戻した。
人々はロエールを守護神と崇め、ロエールは彼らの信仰に応えるために自らの子を人の世界へと送り、末永い守護を約束した。
それが、敬月教の――リーフ曰く、古き時代に取り残された宗教の――初まりである。
◆ ◆ ◆
平原は、青々とした若い麦の絨毯に覆われていた。
まだ少し涼やかな春の風が心地よいが、天上を照らす太陽は夏の日差しを投げかけつつあった。農民たちは日差しを避けるために鍔広の帽子をかぶり、麦を掻き分けて草取りや水やりに精を出している。
広大な麦畑の外縁は土で高く堅く盛り上げられ、道になっていた。道の広さは馬車が二台並んで通れる程度で、多少整備された田舎の街道という雰囲気であった。
薄汚れた一頭の小さな農耕馬に引かれて、農具を積んだ馬車が道を進んでいた。馬車には幌がなく車輪も安い木製で、持ち主があまり裕福ではないことが見て取れた。
実際、馬車の所有者はくたびれた壮年の農夫であり、彼は御者台で手綱を握り、その妻は隣で背中を丸めて座っていた。
自分の馬車のものではない蹄と車輪の音に気付き、農夫が視線を少し上げた。道の先から一台の馬車が近づいてきているのが見えた。
逞しく艶やかな二頭の馬に引かれた馬車は屋根付きで、屋根の端に羽根を模した飾りをつり下げていた。国家公認の敬月教巡礼者用馬車の証だ。
農夫は自分の馬車を道の端に寄せて、対向する馬車に大きく道を譲った。農民同士の馬車なら少しぶつかった程度で揉めることはないが、お上の馬車といざこざを起こすのは避けたかったからだ。
巡礼者用馬車は悠々と農夫達の横を通り過ぎた。夫婦は少し帽子を上げて馬車に黙礼した。
農夫の馬車とすれ違ってからは、特に出会う物もなく、敬虔な信仰者を乗せた馬車は麦畑の間を平穏に進んでいった。
「あらあら、成長不良?」
リンは馬車の窓から、初めて見る景色をじっくりと眺めていた。今までの道中が森や荒れ地といった人の営みとはかけ離れた場所だったので、人が動いている風景が余計に新鮮だった。
周辺国ではもう夏麦の花が咲く頃合いだが、ここの麦は実を結ぶにはまだ背丈が低く穂の成長も進んでいなかった。
「この国は盆地の気候で、春が来るのが少し遅い。麦の種まきは周りの国より遅いけれど、夏の陽気が来れば成長はすぐに追いつく」
隣に座ったリーフがぼそぼそとした声で言った。窓には一切目を向けていなかったが、リンが何を見て言っているのかは察しがついているようだった。
「へぇー」
リンは横目でリーフをちらりと見た。
リーフが髪の色を煤と泥で土色に誤魔化し、流れ者のような振る舞いをしているのはいつものことであったが、服装も普段と少し異なっていた。
リンから借りた革の上着をきっちりと着込み、同じくリンの防塵用マフラーを巻いて顔を隠していた。
リーフはさらに帽子も借りてかぶるつもりだったが、煤で帽子の内側が汚れてしまうことを嫌ったリンに却下された。マフラーなら、簡単に洗濯できるので渋々寄越した。
リンが着ていれば可愛らしさと胸を強調する上着なのだが、何故かリーフが着ると固い印象が増し、怜悧で硬派に見えた。男らしさが増し、自然とリンの胸もときめいた。
正体を隠すための変装だったが、普段のリーフの古びた黒い外套姿より上等で清潔感がある分、機能性を抜きにしても格好良さはこちらの方が上だった。
ちなみに、敬月教の印が入った片手剣は布に包んでリンの荷物と一緒に保管し、両手剣だけ見えるように持ち歩いていた。その両手剣は邪魔にならないようリーフの足元に横たえてあった。
華奢な体格には見合わない大層な武器だが、リーフの妙に堂々とした佇まいのせいで何故かしっくりときていた。
「それより、もう少し上品に振る舞ったらどうだい」
リンはきょとんとして、今の自分の体勢を顧みた。
リーフに衣服を貸したリンは、代わりに敬月教の修道女の格好をしていた。リーフがずっと持ち歩いていたものだ。
漆黒のワンピースに白い付け襟を重ね、首元は白いスカーフで締めている。さらにスカーフの上には、敬月教のシンボルである月と翼を組み合わせたマークが刻まれた、白銀のブロンズ製のブローチを留めていた。
ワンピースは踝にまで届く丈なので、軍用ブーツはあまり目立っていない。
銃のホルスターやウエストポーチのベルトは全て荷物の中にしまい込んでおり、今に限って言えば、完全に武装解除したごく普通の女の子だった。
そんな服装をしているというのに、リンはすっかりいつも通りの軍用ズボンを履いている調子で、馬車の座席の上で膝立ちになって外を眺めていた。
どこからどう見ても、慎み深い敬月教信者ではなく、田舎から出てきた世間知らずの少女だった。
そのことに気付くと、リンはばつが悪そうに外を眺めるのをやめてリーフの隣に大人しく座り直した。
「リーフさんはお詳しいのですね」
馬車に乗っていた別の客がリーフに声を掛けた。
リーフ達と然程歳の変わらない、修道女の娘だ。栗色の巻き毛と柔和な顔立ちがとても人懐っこそうに見え、そして実際人懐っこい性格のようだった。
こちらは本物の敬月教信者であり、リンと違って大変お淑やかだ。
「この辺りに、何度か仕事で来たことがあるだけです」
ぼそぼそとした声で返事はしたが、リーフは娘と目を合わせようとはせず、視線を避けるように更にマフラーを高くたてて顔を隠した。
リーフはあまり社交的ではないが、ここまであからさまに人を避けるのは珍しいことだった。
「リーフはね、こう見えてすっごく頼りになる護衛なのよ」
リンは身を乗り出して、気まずくなる前に娘とリーフの間に割り込んだ。
「私が今年、どうしても聖都を見に行きたいって言ったら、うちの教会の皆が一斉に反対したんだ。でも、リーフがついているんならいいって許可してくれるくらい凄いんだから」
「す、凄いわね」
リンが目を輝かせながら捲し立て、娘はその勢いに押されて反射的に頷いた。
「リーフがいてくれたら、モンスターだろうが悪魔だろうが目じゃないわ」
――っつーか、多分悪魔より怖ぇだろ。
リーフは無言で足下に置いた両手剣を踏みつけた。ブーツの踵の、金属が仕込まれた部分でぎりりと剣の柄を踏みにじり、柄は馬車の板に軽くめり込んだ。
音を立てないように気をつけたので、他の乗客はリーフの行動に気付かなかった。
リンもほんの一瞬、両手剣に視線を向けたが、すぐに娘に向かって、リーフの凄いところを演説し始めた。無論、話の殆どが虚構だった。
リンが語るお伽噺の中では、リーフは突如片田舎に現れ、盗賊を何回も撃退し、家畜を獣から守り、村人に取り憑いた妖魔を祓う手伝いまで買って出た救世主だった。もちろん、その過度に誇張された話を本気で取り合うわけもなく、娘は曖昧に笑って流し聞きしていた。
同じ馬車に乗った他の客達も、苦笑を浮かべて夢見がちな少女を演じるリンを見ていた。
結果的にリンのはっちゃけっぷりがよく目立ち、リーフの纏う排他的な雰囲気も、騒がしい連れに辟易しているように見えた。
いつもなら、リーフも悪目立ちしない程度に周囲と交流できる。しかし、今のリーフにはそんな余裕はなさそうだった。
外の様子を少しも見ようとせず、ただただ、険しい顔で視線を床に落としていた。両腕を胸の前でがっちりと組んで座り、馬車が石を踏んで少し揺さぶられた程度では微動だにしない。
その様子を横目で見て、リンは頭の隅で死地に向かう兵士のようだと思った。
そしてその見方は、残念なことに間違いではなかった。
リーフは、これからこの国の最高権力を相手にして、死ぬ覚悟で戦うつもりなのだと既に明かしていた
獣の従者を従えた神々は皆超常の力を持っていた。神は力を惜しみなく人に与え、人はそれを利用して現代と比較にならないほどの高度な文明を築き上げていた。
神の力は平等に与えられ、人は飢えも貧困も大きな争いもない、理想郷とも呼べる世界で平和に暮らしていた。
神も人の知恵に敬意を払い、驕ることなく人を守護し続けた。
お互いの関係は永遠に続き、理想郷は完全無欠なものと思われた。
しかし、理想郷は悪魔によって全て破壊されてしまった。
力なき人の台頭を快く思わなかった神が、悪魔と名乗り、邪竜を引き連れ軍団となって神と人に牙を剥いたのだ。
悪魔となったのは極一部の神しかいなかったが、彼らは戦いに優れた神であり、平穏を望む神々と互角以上の力を有していた。
悪魔は人に味方する神々を囚え、神と人が協力して創造した遺産を破壊した。時には、反抗する人々ごと町を滅ぼすことさえあった。
善き神は人を庇い悪魔の侵攻を防ごうとしたが、悪魔の振るう絶大な力の前に多くの神は圧倒されていった。
倒れ臥し悪魔に屈服していく善き神々の中で、只一柱、白き守護の神ロエールは決して悪魔の軍勢に屈しなかった。
ロエールは神の中でも随一の守りの力で弱き民と争いを好まぬ神を庇護し、十一の天使と白き竜と共に悪魔を打ち倒していった。
そして、遂にロエールは悪魔の頂点に立つ魔王ルイノエを封印し、人の世界を取り戻した。
人々はロエールを守護神と崇め、ロエールは彼らの信仰に応えるために自らの子を人の世界へと送り、末永い守護を約束した。
それが、敬月教の――リーフ曰く、古き時代に取り残された宗教の――初まりである。
◆ ◆ ◆
平原は、青々とした若い麦の絨毯に覆われていた。
まだ少し涼やかな春の風が心地よいが、天上を照らす太陽は夏の日差しを投げかけつつあった。農民たちは日差しを避けるために鍔広の帽子をかぶり、麦を掻き分けて草取りや水やりに精を出している。
広大な麦畑の外縁は土で高く堅く盛り上げられ、道になっていた。道の広さは馬車が二台並んで通れる程度で、多少整備された田舎の街道という雰囲気であった。
薄汚れた一頭の小さな農耕馬に引かれて、農具を積んだ馬車が道を進んでいた。馬車には幌がなく車輪も安い木製で、持ち主があまり裕福ではないことが見て取れた。
実際、馬車の所有者はくたびれた壮年の農夫であり、彼は御者台で手綱を握り、その妻は隣で背中を丸めて座っていた。
自分の馬車のものではない蹄と車輪の音に気付き、農夫が視線を少し上げた。道の先から一台の馬車が近づいてきているのが見えた。
逞しく艶やかな二頭の馬に引かれた馬車は屋根付きで、屋根の端に羽根を模した飾りをつり下げていた。国家公認の敬月教巡礼者用馬車の証だ。
農夫は自分の馬車を道の端に寄せて、対向する馬車に大きく道を譲った。農民同士の馬車なら少しぶつかった程度で揉めることはないが、お上の馬車といざこざを起こすのは避けたかったからだ。
巡礼者用馬車は悠々と農夫達の横を通り過ぎた。夫婦は少し帽子を上げて馬車に黙礼した。
農夫の馬車とすれ違ってからは、特に出会う物もなく、敬虔な信仰者を乗せた馬車は麦畑の間を平穏に進んでいった。
「あらあら、成長不良?」
リンは馬車の窓から、初めて見る景色をじっくりと眺めていた。今までの道中が森や荒れ地といった人の営みとはかけ離れた場所だったので、人が動いている風景が余計に新鮮だった。
周辺国ではもう夏麦の花が咲く頃合いだが、ここの麦は実を結ぶにはまだ背丈が低く穂の成長も進んでいなかった。
「この国は盆地の気候で、春が来るのが少し遅い。麦の種まきは周りの国より遅いけれど、夏の陽気が来れば成長はすぐに追いつく」
隣に座ったリーフがぼそぼそとした声で言った。窓には一切目を向けていなかったが、リンが何を見て言っているのかは察しがついているようだった。
「へぇー」
リンは横目でリーフをちらりと見た。
リーフが髪の色を煤と泥で土色に誤魔化し、流れ者のような振る舞いをしているのはいつものことであったが、服装も普段と少し異なっていた。
リンから借りた革の上着をきっちりと着込み、同じくリンの防塵用マフラーを巻いて顔を隠していた。
リーフはさらに帽子も借りてかぶるつもりだったが、煤で帽子の内側が汚れてしまうことを嫌ったリンに却下された。マフラーなら、簡単に洗濯できるので渋々寄越した。
リンが着ていれば可愛らしさと胸を強調する上着なのだが、何故かリーフが着ると固い印象が増し、怜悧で硬派に見えた。男らしさが増し、自然とリンの胸もときめいた。
正体を隠すための変装だったが、普段のリーフの古びた黒い外套姿より上等で清潔感がある分、機能性を抜きにしても格好良さはこちらの方が上だった。
ちなみに、敬月教の印が入った片手剣は布に包んでリンの荷物と一緒に保管し、両手剣だけ見えるように持ち歩いていた。その両手剣は邪魔にならないようリーフの足元に横たえてあった。
華奢な体格には見合わない大層な武器だが、リーフの妙に堂々とした佇まいのせいで何故かしっくりときていた。
「それより、もう少し上品に振る舞ったらどうだい」
リンはきょとんとして、今の自分の体勢を顧みた。
リーフに衣服を貸したリンは、代わりに敬月教の修道女の格好をしていた。リーフがずっと持ち歩いていたものだ。
漆黒のワンピースに白い付け襟を重ね、首元は白いスカーフで締めている。さらにスカーフの上には、敬月教のシンボルである月と翼を組み合わせたマークが刻まれた、白銀のブロンズ製のブローチを留めていた。
ワンピースは踝にまで届く丈なので、軍用ブーツはあまり目立っていない。
銃のホルスターやウエストポーチのベルトは全て荷物の中にしまい込んでおり、今に限って言えば、完全に武装解除したごく普通の女の子だった。
そんな服装をしているというのに、リンはすっかりいつも通りの軍用ズボンを履いている調子で、馬車の座席の上で膝立ちになって外を眺めていた。
どこからどう見ても、慎み深い敬月教信者ではなく、田舎から出てきた世間知らずの少女だった。
そのことに気付くと、リンはばつが悪そうに外を眺めるのをやめてリーフの隣に大人しく座り直した。
「リーフさんはお詳しいのですね」
馬車に乗っていた別の客がリーフに声を掛けた。
リーフ達と然程歳の変わらない、修道女の娘だ。栗色の巻き毛と柔和な顔立ちがとても人懐っこそうに見え、そして実際人懐っこい性格のようだった。
こちらは本物の敬月教信者であり、リンと違って大変お淑やかだ。
「この辺りに、何度か仕事で来たことがあるだけです」
ぼそぼそとした声で返事はしたが、リーフは娘と目を合わせようとはせず、視線を避けるように更にマフラーを高くたてて顔を隠した。
リーフはあまり社交的ではないが、ここまであからさまに人を避けるのは珍しいことだった。
「リーフはね、こう見えてすっごく頼りになる護衛なのよ」
リンは身を乗り出して、気まずくなる前に娘とリーフの間に割り込んだ。
「私が今年、どうしても聖都を見に行きたいって言ったら、うちの教会の皆が一斉に反対したんだ。でも、リーフがついているんならいいって許可してくれるくらい凄いんだから」
「す、凄いわね」
リンが目を輝かせながら捲し立て、娘はその勢いに押されて反射的に頷いた。
「リーフがいてくれたら、モンスターだろうが悪魔だろうが目じゃないわ」
――っつーか、多分悪魔より怖ぇだろ。
リーフは無言で足下に置いた両手剣を踏みつけた。ブーツの踵の、金属が仕込まれた部分でぎりりと剣の柄を踏みにじり、柄は馬車の板に軽くめり込んだ。
音を立てないように気をつけたので、他の乗客はリーフの行動に気付かなかった。
リンもほんの一瞬、両手剣に視線を向けたが、すぐに娘に向かって、リーフの凄いところを演説し始めた。無論、話の殆どが虚構だった。
リンが語るお伽噺の中では、リーフは突如片田舎に現れ、盗賊を何回も撃退し、家畜を獣から守り、村人に取り憑いた妖魔を祓う手伝いまで買って出た救世主だった。もちろん、その過度に誇張された話を本気で取り合うわけもなく、娘は曖昧に笑って流し聞きしていた。
同じ馬車に乗った他の客達も、苦笑を浮かべて夢見がちな少女を演じるリンを見ていた。
結果的にリンのはっちゃけっぷりがよく目立ち、リーフの纏う排他的な雰囲気も、騒がしい連れに辟易しているように見えた。
いつもなら、リーフも悪目立ちしない程度に周囲と交流できる。しかし、今のリーフにはそんな余裕はなさそうだった。
外の様子を少しも見ようとせず、ただただ、険しい顔で視線を床に落としていた。両腕を胸の前でがっちりと組んで座り、馬車が石を踏んで少し揺さぶられた程度では微動だにしない。
その様子を横目で見て、リンは頭の隅で死地に向かう兵士のようだと思った。
そしてその見方は、残念なことに間違いではなかった。
リーフは、これからこの国の最高権力を相手にして、死ぬ覚悟で戦うつもりなのだと既に明かしていた